榎 善教 国際アジア共同体学会 顧問
アイヌ民族と日本民族 その4

前号ではアイヌ語地名と日本語地名が対になっている例を幾つか例証したが、これにより先住民族のアイヌ人が名付けた地名を日本人が翻訳して、新たな地名として隣接地に命名した事が判明した。

さて、元々のアイヌ語地名はどの様な言語を基に命名されているのだろう? 今日までの研究では、アイヌ民族は氷河期にグレートジャーニーの1グループとして北上して来た事は判っていたが、その出発地はどこだったのか?

人類学、遺伝学、言語学などの研究の結果、今日ではアイヌ民族はトルコからやって来ただろうと言われている。

私達は言語学から推察するしかないのだが、確かにアイヌ祖語はインドヨーロッパ祖語との共通性が高いと思わざるを得ない。

口当たりが良いと言うか、分かり易い例証を幾つか上げてみよう。

 

a.アイヌ語 COT-AN (cotは窪地、住居、anある) 部落
b.インドヨーロッパ祖語  KOT、KUTAM(kuは穴、space)
c.英語 COT 鳩小屋、山羊小屋、ドイツ語はkutam.
 
a.アイヌ語 MINA 笑う
b.インドヨーロッパ祖語 MI 笑う
c.英語 SMILE(英語祖語にはSがなかった) 笑う
 
a.アイヌ語 MO静かである
b.インドヨーロッパ祖語 MOR 死んだ
c.英語 MORI 中世の死の象徴の図柄
 
a. アイヌ語 MOY 海
b. インドヨーロッパ祖語 MOR-I 海
c. 英語祖語 MERE 海
 
a.アイヌ語 MON 手
b. インドヨーロッパ祖語 MOR 手
c. ラテン語 MUNAS (スペイン語MANO) 手
 
a.アイヌ語 NOCIW 星
b.インドヨーロッパ祖語 NOKW 夜
c.ラテン語 NOCTU 夜に(NOCTURNE 夜想曲)
 
a.アイヌ語 NOTU 岬
b.インドヨーロッパ祖語 NAS 鼻
c.英語 NOSE 鼻
 
a.アイヌ語 OAN 一つの
b.インドヨーロッパ祖語 OI-NO 一つの
c.英語 ONE 一つ
 
a.アイヌ語 RAY 死ぬ
b.インドヨーロッパ祖語 LEI 消える
c.英語 LIE 葬ってある
 
a.アイヌ語 SAK 夏
b.インドヨーロッパ祖語 SAM 夏
c.英語 SAMMER 夏
 
a.アイヌ語 SAM ~のそばに
b.インドヨーロッパ祖語 SEM ~と共に
c.英語 SIT 座る
 
a.アイヌ語 TU ほらあそこに
b.インドヨーロッパ祖語 TA 指示語幹
c.英語 TO ~へ
 
a.アイヌ語 TU 二つの
b.インドヨーロッパ祖語 DOWOO
c.英語 TWO
 
a.アイヌ語 WAKKA 水
b.インドヨーロッパ祖語 AK-WAA
c.英語 WATER
 
a.アイヌ語 SI 自分
b.インドヨーロッパ祖語 SIUE 自身
c.英語 SELF
 
a.アイヌ語 HAW 声
b.インドヨーロッパ祖語 OU 話す
c.英語 AUDIENT
 
a.アイヌ語 METOTkuw-a 山の中
b.インドヨーロッパ祖語 MAT 真ん中の
c.英語 MID 中間の
 
a.アイヌ語 KUW-A 杖
b.インドヨーロッパ祖語 kjuu 棒
c.英語 CUE 玉突き棒
 
a.アイヌ語 PORKE 掘割
b.インドヨーロッパ祖語 PAR 掘る
c.ラテン語 PORCA 畝
 
a.アイヌ語 UPAR すす
b.インドヨーロッ祖語 KWEP 煙
c.英語 VAPOR 湯気、霧

 

 

以上のごとく、アイヌ語はインドヨーロッパ祖語圏に属している事から、ラテン語、ヘブライ語、現代のヨーロッパ各国の言葉にも比定出来る。それにしても、日本民族はアイヌ民族と日本列島に数千年も共に生活して来たのに相互の影響があまりにも少ないのに驚いた。

(続く)