井上 高志 株式会社ネクスト社長
日中不動産業界は助け合うべき

株式会社ネクストの井上高志社長は40代前半の若き経営者である。26歳で事業を興し、一組の消費者ニーズを知り『HOME’S』 というサイトを開設した。14年の奮闘を経て、現在は全国360万余りの物件を扱う日本最大級の住宅・不動産情報ポータルサイトに成長した。2006年には上場も果たした。

井上氏は現在、複数の国での不動産・住宅情報サイト開設を準備中であり、中国を含むアジア諸国や地域のユーザーに情報提供したいと考えている。そのため、氏は何度も中国の沿岸地域に足を運んでいる。「自分の足で、自分の目で、自分の頭で、中国を理解したい」と語る井上高志社長を11月2日午後に訪ねた。

 

「中国の不動産崩壊説」はあり得ない

―― 日本では、中国不動産経済に対していろいろな懸念があるようです。「中国不動産バブル説」「中国不動産崩壊説」などが強く影響していると思いますが、どのようにお考えですか?

井上 戦後の歴史を考えると、日本はかつて深刻な「住宅難」の時代がありました。あの時代は、東京など、どこの大都市でも大量の公団住宅、市営住宅などを建設し、まず、量的な面での需要を満たす必要がありました。その後、徐々に量から質の追求に変わりました。

このことから考えて、中国の不動産市場も、やはり、いまのところは量を求められている段階だと思います。このような大量の不動産が中国の大都市に集中し、かつ第二都市部まで広がることで、取壊し立退き用地、及び市の税収、都市の景観変貌などすべてが、たいへん注目を集めており、自ずと社会の関心の的(まと)の1つともなっています。

都市の発展の経過から考えると、中国社会は、住宅難時代を経て、現在は大量供給の時期にあり、各地ともまだ「低価格分譲住宅」が建設されている、といえばいいでしょうか。人口を考えると、中国の人口は日本の十倍以上で、住宅の需要量も大きいものです。さらに中国の地方地域を考えに入れると、その可能性は、日本とは比べ物にならない大きなものです。つまり、住宅建設業が進出できる空間が存在しているということです。

率直に申し上げますと、私は中国の多くの地域に行きましたが、中国の新しい建築の質はまだ「百年の大計」とは言いがたく、更に新しいモデル・チェンジには、一世代の時間を要するかもしれません。このことから、私は「中国不動産崩壊」はあり得ないと予想しています。

「中国不動産バブル説」に至っては、そういった地域も存在しますが、それはコントロールできる範囲内でしょう。バブル(泡)は押しつぶせるものですから。

 

投資動向をコントロールすれば、バブルは防げる

―― そうはいっても、中国人は日本の不動産バブル崩壊以後、「失われた10年」「失われた20年」という経済の低迷を目にして、やはり中国も日本と同じ道をたどるのではないかと心配しています。日本で崩壊した不動産の「バブル経済」から、中国はどんな教訓をくみ取るべきだと思われますか?

井上 住宅建設の最初の目的は、人々を住まわせるということでした。それを投資目的にした場合には、大量のホットマネー(短期投資資金)が流入し、不動産市場のバブルを生みだすのです。

1980年代の日本では確かにそういった状況で、半年間で住宅価格は1.5倍~2倍ほどに上昇しました。会社Aが住宅を会社Bに売り、会社Bはそれをまた会社Cに売り、会社Cはさらに会社Dに売るということが、往々にして行われていました。このような、全く付加価値が加えられない住宅が、AからBに転がされ、あるいはC、Dに転がされる過程で、価格は20%上乗せされ、最後には物件の価格が二倍、三倍にまで膨れ上がるのです。これでは、不動産バブルを引き起こさないはずがないでしょう?

実際は、そこに住みたい人こそが、本当の住宅需求者なのです。その人たちを満足させるために住宅を建設する不動産市場が、健全な市場だと言えます。反対に、大量の投資家の介入は、最後には不動産価格のすさまじい上昇を招き、不動産の実質的価格を完全に超えてしまい、不動産バブルを形成するのです。

中国政府は厳格なコントロールを行っていますが、このコントロールは主に投資家に対して、不動産バブルに対してのものであり、住宅需要者に対してではありません。中国国民の住宅に関する実質的需要が存在するからです。中国政府がそのようにするのは、ある程度日本からの教訓をくみ取っているからだといえます。

 

日中不動産業界は助け合うべき

―― 先ほど、日本の不動産企業の中には中国進出を始めたところもあるという話になりました。同時に、中国の不動産業界も日本の不動産市場に狙いを定めています。あなたは、日中の不動産業界がどのように協力を進めるべきだと思われますか?

 

井上 我々も、現在その問題について考えています。日本は地震大国で、いつも各地で地震が発生し、自然災害が頻発しています。しかし、日本の建築技術は、地震の影響をできる限り抑えることを可能にしました。つまり、住宅建築は非常に強い地震だからといって倒壊するわけではないということです。

今回の3・11東日本大地震を見ても分かりますが、多くの家屋は地震そのものではなく、それによって引き起こされた津波によって倒壊したのです。これは、日本では質の良い、技術の高い住宅を有していることを証明しています。建設会社も含めた日本の不動産企業はこれらの技術・これらの建築理念を中国に持ち込むべきだと思います。

そのほか、日本の不動産企業は、たとえば、詳しい説明会を催すとか、案内役をつとめるなど、中国の不動産企業が日本市場に進出する手助けをするべきです。住宅・不動産情報ポータルサイト『HOME’S』を運営している我々としては、このサイトをグローバルなものとし、中国等のアジア諸国や地域に進出したいと思っています。中国は大き過ぎるということも承知しています。もし、中国全土にこのような業務を広げようとしたら、きっと何年もの時間がかかるでしょうが、私は残りの半生をかけてそれを達成したいと思っています。

 

不動産・住宅情報の国際化実現へ

―― 多くの国に向けた、多言語不動産情報サイトは、どれほど大きな将来性のある市場なのでしょうか?

井上 現在、住宅・不動産情報ポータルサイト『HOME’S』上には約360万件の不動産物件が掲載されていますが、その大部分は中国語と英語でも紹介しています。海外の顧客にとっては、中国語と英語の簡単な説明があれば、すぐに理解することができますから。これも、わが社のグローバル化に向けての重要な部分です。

今後は中国の不動産・住宅物件をサイトに掲載し、日本語や英語でも紹介したいと思っています。我々はまた、タイの不動産・住宅物件も中国語で紹介し、中国の方が我々のサイトを通じてタイの不動産に投資をできるようにしたいとも思っています。

最近、中国の方が日本で不動産を買い始めましたが、ベトナム、タイなどの経済が発展すれば、中国の方はそれらの国でも投資をすると思います。我々の国際業務の発展にともない、世界中の人々が、自分の母語で我々のサイト上の世界各地の不動産物件情報を見られるようにすることが理想です。この、今までに類を見ない事業を、がんばって必ず実現しようと思っております。