漢字の知的財産権を保護せよ

国家版権局は、2012年4月30日を期限に『中華人民共和国著作権法』(修正草案)について意見を求めた。4月23日、中文字体業協会は国内の関連メーカーと北京でシンポジウムを開催し、『著作権法』(草案)関連条項の改正を呼び掛けた。

これはコンピュータ使用の文字や漢字の書体(フォント)に法的な保護を与えようというもので、中国工程院アカデミー会員であり中国中文信息学会の元理事長、倪光南氏や中国中文信息学会副理事長兼秘書長の孫楽氏、北大方正電子有限公司の字庫業務部総経理の張建国氏、北京漢儀科印信息技術有限公司総経理の馬憶原氏など、業界の専門家が集って議論した。

国家新聞出版総署法規司副巡視員の高思氏が列席し、提案を聞いた。

 

フォント業の危機

 国際間の経済競争において知的財産権の役割が高まっているが、フォント業者も知的財産権保護の重要性を認識するようになった。

 これまで、漢字、書体、コンピュータ使用の文字といった概念については、混然一体になっていて明確でなかった。一般的に書体は祖先から伝えられた共有財産であると考えられ、社会もフォント業の経営に対する理解に欠け、書体商品の版権盗作が横行している。

コンピュータ使用の漢字という新しい現象に対する関連法も保護細則がなく、文字の権利侵害案件に対する判決は裁判所によって異なり、矛盾していることさえある。

2008年から2011年にかけて、方正電子が訴えた宝潔の「飄柔」書体著作権訴訟事件において、北京市第一中級人民裁判所の最終判決は、方正電子の公訴を却下し、倩体(美麗体)の「飄柔」という2文字が美術作品としての著作権を持つかどうかという争点に対して、支持するでもなく反対するでもなく、「文字の1字が美術作品としての著作権をもつかどうか」という司法の良識を悩ます敏感で核心的な問題を避けた。

 さまざまな要因によって、フォント業が徐々に衰退してきている。現在中国国内には、ある程度の規模のフォントデザインメーカーが数社残っているものの、その多くはようやく維持している状態である。

2011年の調査デ―タでは、中国と同様に漢字を使用している日本、香港、台湾などの国や地域では、新しい文字を開発する企業が存在する。日本のフォント業メーカーの書体数は2973種に達し、台湾のメーカーは296種、香港のメーカーは106種に達するが、世界最大の漢字使用地域である中国国内の字体パターンはわずか421種で、隣国の日本にかなり後れをとっている。

 中国中文情報学会副理事長兼秘書長の孫氏は、次のように憂慮している。「中国の中文書体に対する知的財産権はしっかりした保護がなされていないので、ある日突然、外国のフォントメーカーが次々と中国の市場に乗り込んでくるかもしれない。そうなれば中国本土のフォント企業は排除されたり呑み込まれたりする局面にさらされ、中国人あるいは中国企業は、外国のフォント会社から中国語文字を買わなければならない事態にいたることも想定される」。

  

財産権保護か知識の独占か

 中国語フォント業者が次々と財産権保護を訴える声を上げる一方で、一部には疑問を呈する人々もいる。もし関連法が成立すれば、今後新しい書体を使用するには金を支払わなければならなくなり、これは公共の利益に影響を及ぼすのではないか。

 2008年、宝潔公司が方正電子の倩体字体の「飄柔」を、自社商品「飄柔」シャンプーなど多種類の商品のパッケージやロゴに使用したことを、方正電子は自らの美術作品の著作権が侵害されたとして、北京市海淀区人民裁判所に提訴するに至った。

宝潔公司側は、「文字は情報を伝えるための媒体であり、その主な機能は意味の伝達で、漢字は少数企業に独占されるものではない。方正電子が倩体字及びその中の文字の美術品著作権を有するものではない」と主張した。

宝潔の代理弁護士は法廷で次のように語った。「我々は宝潔のために戦っているのではない、社会のために戦っているのだ」。

 それでは書体を保護することは、人々の日常的な使用に影響を与えるだろうか。同済大学知識産業権学院の陶?良院長は、次のように語った。「すでに著作権のない伝統的な書体やこれら伝統的なものを少し改良した書体、著作権の保護を受けない書体やその文字の使用に支払いの必要はない。伝統的な書体をベースに大幅な改造をしたり、独創性の高い書体は、合理的に費用を徴収すべきである。実際は、人々が使用する書体の95%以上は費用を支払う必要がなく、漢字の独占と公共利益に対する損害に対する心配はない」。

 

外国の経験を参考にする

必要はあるのか

 当日の席上で、フォント業者は集団で修正案を提出した。現行の『著作権法実施細則』の第3条第8項、美術品の定義の中に「字形デザイン(或いは字形絵画)」の内容を加え、あわせてコンピュータの文字がソフトに属するかどうかについて明確に規定した。中国工程院アカデミー会員の倪氏は、「コンピュータの文字はソフトである」と著作権法に規定すべきだと指摘した。

 専門家は次のように紹介した。「字形デザイン」の考え方は、中国の台湾地区の『著作権法第5条第1項各款著作内容例示』の第2項4款に、「美術著作とは、絵画、版画、漫画、連環画(カートン)、素描、書道、字形絵画、彫塑、美術工芸品及びその他の美術著作を含む」と規定されているのを参考にしたものだ。

 日本の判例にも次のような規定がある。「書道或いは芸術文字などは文字を素材としているが、思想或いは感情に関わる美的創作に属するものである。つまり文字が情報伝達の実用機能を具有するものでなく、美の観賞対象になるときは、文字など本来の実用的な記号としてではなく、著作物としての性格を具有するものとなる」。

 北京中易中標電子信息有限公司総経理の藍徳康氏は、「漢字は中国人が発明し、数千年来にわたって受け継がれてきたものである。漢字字形の知的財産権を保護するのに、なぜ外国の経験を参考にしなければならないのか。中国は漢字の本家であるから、我々が主役であるべきだ」と発言した。