姬霞敏 中国国際茶文化研究会副会長
梧州六堡茶の中原進出―中国黒茶産業の新たな試み

近年、健康志向の高まりと黒茶市場の拡大に伴い、広西・梧州の六堡茶が嶺南から、より広い舞台へと市場を拡大しつつある。中原の後背地である河南でも六堡茶のファンは増えている。2003年に鄭州初の茶葉卸売市場を創設し、河南茶産業の発展に携ってきた開拓者である河南省茶葉商会創会の姬霞敏会長は、河南の茶市場の始まりから発展・繁栄の全過程を知る人物であり、2014年に六堡茶の中原への展開を決断した。姫氏はチームを率いて、講座や文化祭の開催、市場の開拓、産業連携に努め、ニッチブランドであった六堡茶を大衆ブランドに定着させようとしている。この度、『日中茶界』編集部は姬霞敏会長にインタビューを行い、氏のこれまでの歩みを振り返りながら、梧州六堡茶の中原進出の舞台裏についてうかがった。

――いつからこの業界に携わるようになったのですか

姬霞敏 2003年に鄭州初の茶葉卸売市場を創設したのが始まりです。2001年に広州に出張した際、現地の茶葉市場を目にしたのですが、北方人の私にとっては新鮮な驚きでした。当時、河南地域の茶の消費量といえば、職場が支給する夏の暑気払いの茶程度で、ジャスミン茶や信陽毛尖茶以外はほとんど目にすることはありませんでした。そこでこのような市場が河南にもあればと考えたのです。

2002年から準備を始め、当初は大変苦労しました。2003年10月18日に鄭州茶葉卸売市場がオープンし、1年も経たないうちに信陽毛尖、鉄観音、プーアル茶、花茶、紅茶、台湾茶などがそろい、さらに茶道具・茶器や根雕(木の根を使った彫刻品)まで扱うようになり、省内や周辺都市から顧客が訪れ、鄭州の茶愛好家も次第に集まるようになりました。初期の商人たちのほとんどが国香茶城に残り、河南市場の中核を担っています。彼らは市場の参画者であり、建設者であり、なくてはならない存在です。今では二代目、三代目へと受け継がれています。市場もアップデートを繰り返し、ハード・ソフト両面で大きく整備が進み、商務部から「中国特色商業街」の称号が授与されました。

――六堡茶を知り、好きになったのはいつからですか

姬霞敏 2014年に中国茶葉流通協会の活動で梧州を訪れた際に六堡茶を知り、一口飲んでその独特の風味と体に優しい感覚にたちまち魅了されました。さらに、蒼梧県の産地まで足を運び、六堡茶を持ち帰って友人たちと味わいました。当時の六堡茶は価格も手頃で、年代物の概念はほとんどありませんでした。

当時の河南市場ではプーアル茶や白茶が人気で、大きなシェアを占めており、信陽毛尖や花茶、鉄観音も根強い人気がありました。六堡茶はほとんど知られていませんでした。しかし友人たちに勧めると皆気に入ってくれ、度々仲間を招いて茶会を開きました。そこから徐々に六堡茶のファンが増えていきました。当時取り寄せた茶は今でも少し残してありますが、どれも上質なもので、毎年飲む度に風味が増しています。

 

 

 

――なぜ「六堡茶中原進出」イベントを開催しようと思われたのですか

姬霞敏 当イベントの主眼は、六堡茶を中原、特に河南地域に紹介し、この優れた黒茶を多くの人びとに知ってもらうことです。具体的には次の3つの視点が挙げられます。

1.六堡茶自体の価値:千年以上の歴史を持つ六堡茶は黒茶の代表であり、価格も手頃で保存がきく。整腸作用があり、湿邪を祛除するなどの効能がある。コアコンピタンスは「コストパフォーマンス+効能+文化的背景」であり、特に、今日の健康志向のニーズに合致している。

2.中原市場の受容性:河南地域は受容性が高く、中国六大茶はすでに根付き、市場は成熟している。鉄観音、金駿眉、プーアル茶、白茶などが河南市場では人気で、庶民に愛されている。黒茶の六堡茶が加わることで、消費者に新たな選択肢を提供できる。

3.これまでの実績と長期的展望:2019年には第一回「六堡茶公益大講堂」を開催し、マレーシア六堡茶協会の郭俊邦会長、梧州の専門家である呉平氏らを招き、六堡茶の文化、歴史、特長を紹介。さらに、中原茶文化祭において六堡老茶試飲会を開催した。これらの活動を基に、中原進出イベントを展開し、六堡茶をニッチブランドから大衆ブランドに押し上げる。

 

――過去の2回と比較して、第3回六堡茶中原進出イベントで特に注目すべき点は何でしょうか

姬霞敏 第3回は過去2回と比べて、規模も内容も大きくレベルアップしました。

今回は梧州から42社が出展し、過去最多となりました。多くの企業が主力商品を持ち寄り、消費者に多くの選択肢を提供し、業界の実力を示すイベントになりました。

老茶試飲会、六堡茶ティーブレンドコンテスト、清涼茶会、専門家によるディスカッション、トップ10ブランドの選出など、耳目を一新する内容が多くの参加者を魅了しました。

質的にも大きな進歩が見られました。専門家によるディスカッションには茶文化研究者の楊多傑氏、著名な茶専門家の呉錫端氏、張俊偉氏、マレーシア六堡茶協会の郭俊邦会長らが招かれ、文化、流通、生産等の側面から六堡茶の現状と未来を分析し、六堡茶産業発展のための貴重な視点を提供し、参加者の理解も深まりました。

席上「六堡茶発展鄭州宣言」が発表され、六堡茶の普及に希望がもたらされました。宣言には、南北間の協力を強化し、流通網を整備し、安定した供給システムと文化振興のための枠組みを構築することが明示されました。これは六堡茶産業が地域協調発展という新段階に入ったことを意味し、六堡茶の中原市場における地位を強固にし、そのブランド力と文化を全国に発信するものであり、六堡茶産業の発展に大きな意義を有するものです。南北間協力、産地と消費地の連携、ブランドの構築、文化の発信によって、六堡茶はより広大な市場を獲得することが期待されます。

 

――六堡茶は「僑銷茶」として北方の市場に参入できるでしょうか

姬霞敏 そのチャンスはありますし、挑戦でもあります。それには「僑銷茶」としての製品特性、市場ニーズや環境が関係してきます。六堡茶が中原市場に参入可能な要素として以下の3点が挙げられます。

1.製品特性が北方市場のニーズに適合している。六堡茶は価格が手頃で大衆の受容度が高い。睡眠に影響せず、整腸作用がある。コストパフォーマンスに優れ、体に優しいという消費者ニーズに合致している。「熟成するほど美味しい」という特質が一部消費者の志向にマッチする。

2.事前の普及活動で基盤が整う。2019年以降、公益大講堂、六堡茶文化祭、試飲販売などの活動を通じて認知度を高めており、スタートアップコストは削減されている。北方市場には既に六大茶が根付いており、市場として成熟している。

3.茶の保存に適した環境。鄭州をはじめとする北方の都市は四季が明瞭で、六堡茶の後熟・転化に適しており、標準化された貯蔵システムが確立できれば「北方の特色ある六堡茶」という差別化によって、競争力を高めることができる。

――六堡茶の北方市場における売上、認知度についてはいかがでしょうか

姬霞敏 六堡茶はここ2年ほどで急速に注目を集め、新たなブームになりつつあります。特に中原市場における勢いは顕著です。

河南省では、河南省茶葉商会と梧州市茶産業発展局の協力によって、普及が大きく進みました。「公益講堂」、老茶試飲会、六堡茶グルメ新春茶会、3度にわたる「河南六堡茶文化祭・梧州六堡茶中原進出」イベント等の一連の活動によって市場への浸透が進み、六堡茶の売上は飛躍的に伸びました。

その勢いはデータからも明らかです。河南市場において、2~3年前には1000万元(約2億円)に満たなかった六堡茶の売上額は、2024年には5000万元(約10億円)を突破しました。短期間で数倍の伸びを示し、中原市場のダークホースになっています。今年9月12日~14日に開催された「河南六堡茶文化祭・梧州六堡茶中原進出」イベントは大盛況で、梧州の六堡茶企業40社が出展し、多くの企業が現地の「茶城(茶葉市場)」や販売業者と提携を結び、中原における六堡茶の販売ネットワークが強化されました。

――今現在、国香茶城に六堡茶を扱う業者はどれくらいありますか。また、それぞれにはどのような特徴がありますか

姬霞敏 国香茶城で六堡茶を扱う業者は急増しており、六堡茶専門店は10数店舗、さらに、40数店舗が六堡茶を扱っています。

有名専門店チェーンの三鶴六堡、中茶六堡、中茗六堡、聖源六堡、茂聖六堡、天誉六堡は、その伝統と知名度によって人気を集めています。梧州ブランドの三鶴六堡は長い歴史を有し、成熟した技術と安定した品質を誇り、芳醇な味わいとビンロウの香りが古くからの茶愛好家に愛されています。中茶六堡は中粮集団の強力なリソースとチャネルの優位性を背景に、研究開発と生産基準に厳格な姿勢を貫き、原材料の選定から加工に至るまで高い基準を遵守しています。販売ネットワークを全国にもち、国香茶城内の店舗にも品質とブランドを追求する多くの消費者が訪れています。

今年は「梧州六堡&茶船古道」と「梧州六堡茶河南販売促進センター」が国香茶城に出店しました。中原市場に新たな活力が吹き込まれることが期待されます。

ニッチブランドや独立経営者がユニークな商品やパーソナライズされたサービスによって足場を築いています。行水堂のオーナーである李偉氏は、六堡茶を仕入れるために蒼梧県まで頻繁に赴き、店内では現代のお茶と古茶の両方を味わうことができます。

一部の業者は複数種の茶を取り扱いながら、ここ数年、「特色ある品種」として六堡茶を扱うようになりました。聖源茶業の王銀奨社長は福建省の出身ですが、主に六堡茶、福鼎白茶、西湖龍井を扱っています。