注目すべき日本のペロブスカイト

ペロブスカイト太陽電池は、高効率、軽量でフレキシブルなことから、太陽光発電技術革新の方向性として注目を集めている。量産化の面では中国や欧州が先行しているが、日本は「材料精度とシステムの信頼性」を武器に着実に歩みを進めている。

日本政府は2021年にペロブスカイトを、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーン成長重点技術に位置付け、産学官の連携のもと実証試験に移した。東京大学や京都大学などの研究機関と企業が連携し、高品質なペロブスカイトフィルムの製造とパッケージングを共同開発しており、実証ラインは2025年前後に始動する計画だ。ただし、この技術競争は資本市場の俎上には上がっておらず、多くのキーワードは特許公報や研究日誌に留まったままだ。

実践面で注目すべきは、日本の上場企業4社である。いずれも「ペロブスカイト関連銘柄」を自称してはいないものの、その技術戦略が、日本のペロブスカイト産業チェーンを陰で支えている。

・AGC株式会社(5201.T):世界有数の機能性ガラス及びパッケージ材料のサプライヤーであり、近年は、ペロブスカイト太陽電池フィルム用の耐候性の高い透明なパッケージ基板を提供している。これは建材一体型太陽光発電(BIPV)に適している。

・住友化学株式会社(4005.T):導電性ポリマー、界面構造制御研究において長年の蓄積があり、ペロブスカイトの中間層構造への適合性について研究を進めており、電池の安定性確保に貢献する。

・JSR株式会社(4185.T):半導体フォトレジストメーカーとして知られ、近年は高分子ポリマー電子材料やナノフィルム技術を太陽光分野に応用し、ペロブスカイト太陽電池モジュールの発電効率向上に取り組む。

・株式会社環境フレンドリーホールディングス(3777.T 旧商号 FHT ホールディングス):基幹事業は再生可能エネルギー発電所建設及びITソリューションであるが、すでにペロブスカイト関連の実証プロジェクトに参画しており、ペロブスカイトモジュール敷設におけるシステムサポートが期待される。

これら企業の戦略に派手さはないものの、コア材、パッケージング技術、応用力を突破口とする日本のペロブスカイト産業の後方支援の強さを物語っている。

そこには三つの明確なロジックが読み取れる。第一に、日本はコア材とパッケージング技術の再配置を進める。第二に、「産業チェーン、テクノロジーチェーン、シーンチェーン」を通じて、共に商業化の可能性を探る。第三に、BIPV(建材一体型太陽光発電)、携帯設備、工業団地の屋根などから始め、徐々に導入を進める。

短期的には、ペロブスカイトに対する資本市場の関心は材料効率や変換効率に集まるであろうが、一部の日本企業は着実にチャネルを築きつつある。いつの日か、東京の高層ビルのガラスカーテンウォールや地方の商業施設の屋上に、ペロブスカイト太陽電池を見つけた時、実証実験を経たペロブスカイト太陽電池が世の中に定着し始めたことに気づくだろう。

神月 陸見 Mathilda Shen

商業用不動産ファイナンス、クロスボーダー投資銀行業務、M&A、エクイティファイナンス、資本構成の設計および為替リスクの管理に精通。富裕層および企業顧客向けにカスタマイズ型のコンサルティングサービスを提供。Email:mathilda.shen@fingroup.jp