アジアの眼〈88〉
ゴビ砂漠で生まれ育った作家、「時間について」
――現代美術家 ZHAOZHAO(チャウチャウ)

北京郊外の宋庄――アトリエの数が1万とも言われるこの街で、アーティスト・ZHAOZHAOを取材した。

彼は、新疆ウイグル自治区にある建設兵団の一部である、石河子という地域で生まれ育った。広大なゴビ砂漠が広がるこの地には、豊かな自然の営みがあったことを記憶している。

アトリエ提供

幼いZHAOZHAOには、課外活動で綿花を摘んだ記憶が鮮明に残っており、綿花摘みはクラスの比較的重要な行事の一つであったという。

彼は、2003年に地元の新疆芸術学院を卒業し、その後、北京電影学院に進学した。1982年生まれの若手アーティストとして、最も注目されている一人と言っても過言ではあるまい。

世界中の著名なギャラリー、美術館及び博物館で個展やグループ展に出展し、大型アート・プロジェクトも時折手がけている。作品は平面作品、インスタレーション、彫刻作品など、多岐にわたる形式のシリーズを世に出している。

そうした多元的な表現方法で、個人と社会全体との関係性への探究を続け、学識も深く、「建盞(けん さん)、中国の宋・元時代に建窯(けん よう)で作られた天目茶碗)」については、三冊の書籍にまとめるほどの知見を持っている。

古いものへの研究と愛着、古いものと新しいものの融合は、彼の作品でよく用いられる手法である。たとえば、「玉壁星空 Jade Constellations」という作品がある。新石器時代に造られた中央に穴の空いたこの代物は、五千年の歳月の中で、天地鬼神に通ずるエナジーを宿してきた。古くは、礼器や祭器として祀られ、天、神、山、海、河、星など自然界の全てを祭り上げる代物だった。CDのように中央に穴の空いた玉壁をガラスにはめ込むことで、脆弱なガラスに無数のひびが生まれる。一見ガンショットの痕にも見えるこの作品は、過去と現在、土の下と土の上という二極対立を一体化している。長い歴史のスパンの中で、それは星空に散らばる星々のように映るのだという。

いつも展示会の際に陳列室のようなものを入り口付近に一ヶ所設ける。その陳列ボックスの中には、現代の材料で復元された骨董品が、最新の作品と一緒に置かれている。長生きを表す桃の絵と長生きの老人の絵画、古い虎のオブジェと箱に入れられた仏像、描かれた兵馬俑の顔、そして、「葫芦(ひょう たん)」の形をした「コントロール控制」という作品。一見、関係なさそうなものたちが同じ空間に陳列されることで、時間は長くもなり、短くもなる。違和感がありそうだが、難なく成り立っている。

自分の髪の毛を一ミリの長さにカットし、白い紙の上に置いたことがある。等質であり、同じDNAの集まりである。

「1秒」という、絵画創作時間の極限の中で描かれた絵画。作品名は「1秒」。1年と1秒は、遠く離れた存在のようである。なぜなら、1秒と31,536,000秒だからである。だが、1年が一瞬のように早く感じられることもある。

マカオ芸術博物館の展示現場、長い1日 アトリエ提供、2022

「長い一日・AM」という作品がある。2023年、マカオ芸術博物館で開催された個展のタイトルにもなった作品シリーズである。綿花という生まれ育った故郷の身に沁みた記憶のかけらたち。この作品の中では、時間のストーリーと、物質が持つリアルな質感との関係の確立が、あたたかくて柔らかい、複雑に絡み合う質感を生み出している。その中で、綿花と「炎」が持つ制御不能な側面と、「蔓延」に潜む事件性。「園」という象徴的な形の中で、時間はどうやって一日から一年に向かうのか、私たちは想像する。一日は、自然な時間の流れである。太陽と月が軌跡に沿って運行するという客観的な事実であり、同時に、一日の中で何が起きるのか、どういう気持ちで目覚め、どういう気持ちで眠りにつくのかは、とても主観的な時間の流れでもある。

「中国梯(はしご)」という大理石でできたインスタレーションがある。チベットの伝統では、「天の梯子」は13段あり、人は死後、この梯子を通って魂が天に昇ると信じられている。竹の形をしたこの「天の梯子」を大理石で再現することで、自然の梯子が永遠に朽ちないものへと姿を変える。一つの梯子は、大きな一枚岩の大理石から彫り出されている。

空、油絵 150*150cm 2021  アトリエ提供

「空」という題材の平面作品がある。その作品は、2012年から描かれている、表情豊かな画面である。空は、世界中を見てまわる作家が見た「空」だ。マンハッタンの空も、ヨーロッパの小さい街角で見上げた空も、北京の空も、それぞれに一緒にいた人とのストーリーがある。星空と空の違いは、単に昼と夜の差だけではない。

タクラマカンアートプロジェクト、2016年 4K 撮影&4kビデオ 15分15秒、アトリエ提供

ちょうど10年前の2015年、「タクラマカンアート・プロジェクト」が実施された。彼は30人のチームメンバーと一緒に北京を出発し、100キロの電線と1台の冷蔵庫を、ゴビ砂漠のタクラマカンまで4000キロかけて運んだ。道中、彼は現場監督やコマーシャル映画監督などの役割をこなし、現地のウイグル人たちとのさまざまなコミュニケーションを行った。23日間をかけて10台の変圧器を使い、砂漠のど真ん中で新疆ビルをぎっしり詰め込んだ冷蔵庫を24時間稼働させることに成功した。そして、それをそのまま北京に持ち帰った。

彼は自分の作品を繰り返さない。人によっては、自分の作品の一貫性を保ち、認知度を維持するために繰り返すこともあるが、彼はそれを好まない。続けていると、つまらなくなるからだ。

photo by Xijiang

MOMA PS1をはじめ、世界中の著名な美術館・博物館で個展やグループ展を重ね、美術館に収蔵された作品も数多くある、若手アーティストZHAOZHAO。彼が作品を通して表現しているのは「時間」そのものだ。これからの「時間」には、どのような喜怒哀楽が込められていくのか。社会問題への問いかけは今後も絶えることはないだろう。学識豊かで多才な彼の、これからの作品も楽しみだ。

洪欣

東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。