倉光宏和 株式会社明治グローバルデイリー事業本部 牛乳・飲料マーケティング部 牛乳・飲料G長
日本の「明治おいしい牛乳」が中国へ
―― 明治チャイナと歩むグローバル戦略の軌跡

「国民的牛乳」として日本で親しまれてきた「明治おいしい牛乳」が、ついに海外市場へと一歩を踏み出す。初の海外投入先として選ばれたのは、急成長を続ける中国市場――その背景には、明治チャイナと本社マーケティング部門による綿密な連携と、現地の嗜好やライフスタイルに合わせた丁寧な戦略設計があった。「明治おいしい牛乳」はなぜ中国へ、そしていかにして「明治臻好喝牛乳」として現地に根づかせようとしているのか。その舞台裏を、明治本社で「明治おいしい牛乳」ブランドのグローバルマーケティングを統括する倉光宏和G長に伺った。

国民的牛乳の不動の人気

―― 「明治おいしい牛乳」は2002年の発売以来、市場でのトップシェアを維持し続け、幅広い年齢層に親しまれるロングセラー製品となっています。その理由はどこにあるとお考えですか。

倉光 長年にわたり「明治おいしい牛乳」をご愛飲いただいている皆さまに心から感謝申し上げます。人気の理由については、われわれが製品開発で一貫して守り続けてきた三つの基本理念が大きいと考えています。

第一に、「新鮮な生乳のおいしさ」を追求してきたことです。この23年間、われわれは「生乳・製法・品質」にこだわり続けてきました。製法においては、明治独自のナチュラルテイスト製法(以下、NT製法。殺菌前に牛乳中の酸素を取り除くことで、加熱殺菌時の酸化劣化を抑える製法)の改良を続け、品質面では新しいパッケージを導入し、鮮度を長く保てるようにしています。これらの細かな改良はすべて、消費者の皆さまにより新鮮な生乳のおいしさをお届けするためのものです。

第二に、新商品の提案を続けていることです。「明治おいしい牛乳」は、発売当初は大容量と中容量の2サイズでしたが、その後、さまざまなニーズに応えてサイズを増やし、低脂肪タイプや明治おいしいミルクコーヒーなどの派生商品も展開しました。これにより、多様なニーズに応え、ブランド活力を維持しています。

第三に、ブランド理念を発信し続けていることです。発売以来、われわれは「新鮮な生乳のおいしさ」というコア・バリューを、あらゆる機会にお伝えしてきました。日本の牛乳市場で、ここまで一貫してブランド理念を発信してきた商品は多くはないと思います。これが皆さまに深く愛される理由のひとつだと感じています。

多くの方が栄養補給や健康のために、決まったブランドの牛乳をずっと飲用されているため、味にわずかな変化があればすぐに気づかれます。そのため、われわれは技術を進化させつつ、親しまれてきた味わいを守り続けています。

 

在日中国人から高い支持

―― 日本で20年以上愛されてきた味が、中国の人びとに受け入れられるのだろうかと、気になっていましたが、最近行われた在日中国人を対象にした調査では、「明治おいしい牛乳」が最も人気が高いという結果でした。この結果をどう受け止めていますか。

倉光 おっしゃる通り、94%もの在日中国人の皆さまが「明治おいしい牛乳」を「愛飲する牛乳ブランド」として選んでくださいました。この結果は驚きであり、大きな励みになりました。

最も印象的だったのは、60%以上の方が「ブランドやメーカーへの信頼感」「安全・安心のイメージ」を理由に挙げてくださったことです。われわれが長年品質の向上に取り組み、ブランド理念を誠実に発信してきた結果と受け止めています。本当に光栄に思います。

もちろん、最終的には「おいしい」と感じていただけることが最も大切です。味を気に入っていただければ、自然とリピーターになっていただけると信じています。

 

「明治おいしい牛乳」を

中国市場で展開する理由

―― 明治は2013年から中国で事業を展開していますが、主力商品の「明治おいしい牛乳」の海外展開は今回が初めてです。このタイミングで、中国に展開する理由について教えてください。

倉光 明治チャイナから共有された情報によれば、中国では健康的な食生活への関心とニーズが年々高まっており、牛乳も日常の食卓に欠かせない存在となり、需要は着実に伸びています。推奨摂取量である「1日300グラム」に対して、現在、9億人以上がその基準に達していないというデータもあり、消費量は大きく伸びる余地があります。

一方で、毎日牛乳を飲む習慣が定着していないのには理由があります。従来の牛乳の味や匂いに馴染めない人もいます。われわれの調査では、牛乳を飲まない人の約6割が「口当たりが苦手」と回答しています。

そして、これこそわれわれが中国市場に期待を寄せる所以です。日本で20年以上磨いてきた「自然でさわやかな香り、ほのかな甘み、まろやかなコクはそのままに、すっきりとした後味」という優れた品質は、多くの中国の皆さまに喜んでいただけると信じています。

 

「おいしい」から

「臻好喝」へ

―― 消費習慣や好みの違いを考慮した、中国市場に向けてのローカライズにはどのように取り組まれたのでしょうか。商品名の「おいしい」は、直訳ではなく「臻好喝」となっています。

倉光 明治チャイナと連携し、現地の消費者の声に耳を傾けながら、きめ細やかなローカライズに努めました。

まず味についてです。日本で20年以上人気の商品だからといって中国でそのまま通用するとは限りません。発売前に中国の研究開発拠点に消費者を招き、大規模な試飲会を実施しました。多くの方から「おいしい」との声をいただき、確かな手応えを感じました。

商品名についても議論を重ねました。日本語の発音にこだわるのか、「美味」や「好喝」ではどちらがしっくりくるかなどを検討し、最終的に「臻好喝」に決めました。「臻」の字には「極み」「一流」といった意味があり、品質に対する自信と責任を表しました。

パッケージデザインについては、日本版の著名なデザイナーに監修をお願いし、漢字の密度感を考慮しつつ、日本版のシンプルなデザインをできる限り取り入れ、レイアウトや色調にもこだわりました。また、現地の包装資材メーカーとも密に連携をとって包装資材や印刷技術の向上に努め、出来るだけ日本のものに質感を近づけ、ピュアな乳白色を表現しました。

最後にフレーズについてです。たとえば日本では「すっきりとした後味」が強調されるわけですが、中国では「薄い」「水っぽい」と誤解される可能性があるため、ネガティブなイメージを連想させる表現を避け、すっきり感とコクのある味わいが正しく伝わるよう努めました。

「明治おいしい牛乳」生産ライン

中国での展示会

 

独自のNT製法を

中国に導入

―― この製品の「すっきりした味わい」は、御社独自のNT製法によるものだとうかがいました。NT製法とはどのようなものでしょうか。また、中国に導入する際、特に大変だった点があれば教えてください。

倉光 NT製法とは、明治独自の生乳処理技術です。われわれは長年の研究で、生乳に溶け込んだ酸素が加熱殺菌の過程で乳蛋白や乳脂肪と酸化反応を起こし、牛乳に生臭さや後味の悪さが生じることに気付きました。

NT製法とは、加熱殺菌前に生乳中の酸素をできる限り除去し、酸化のプロセスを根本から遮断し、生臭さや後味の悪さの発生を最大限防ぎ、純粋で後味のすっきりした牛乳に仕上げる技術です。鍵は酸素の除去と加熱プロセスの精密な制御にあります。

中国で同じ品質を再現するまでには、多くの課題がありました。先ず、NT製法に必要な設備の導入です。日本から多くの技術者を中国の工場に派遣し、現地スタッフや設備メーカーを指導しながら修正を重ね、ようやく基準を満たした生産体制を整えることができました。

「明治おいしい牛乳」の品質を再現するには、設備だけでなく、生乳の選別と管理も重要です。われわれは日本と同等の「原料乳評価システム」を構築し、明治の厳しい基準を満たした生乳のみを使用しています。

この評価システムは、中国においては全く新しい概念であり、われわれは専門の検査官のトレーニングに多くの時間を費やし、牧場から工場まで完全な品質管理システムを確立しました。特に鮮度の管理については、大元からの管理にこだわり、「新鮮な生乳のおいしさ」という明治の理念を実現しました。

 

健康づくりに貢献

―― 日本では「meiji=健康」というブランドイメージが定着しています。中国は「健康中国2030」計画に国を挙げて取り組んでいるところですが、中国の消費者の健康づくりに、どのように貢献していくお考えですか。

倉光 日本で築き上げてきた「meiji=健康」という信頼は、栄養科学の研究、厳格な品質管理、暮らしに寄り添った提案の積み重ねによるものです。このブランドイメージを中国にも広げ、消費者の健康的なライフスタイルをサポートし、「健康中国2030」に貢献していきたいと考えています。

牛乳は三大栄養素であるたんぱく質・脂質・炭水化物にくわえ、不足しがちなカルシウムなどのミネラルやビタミンB群も豊富に含む日々の栄養源です。臭みがなくすっきりとした味わいの「明治臻好喝牛乳」は、牛乳が苦手な方にも受け入れていただけると思います。

中国市場に進出してより、われわれは一貫して企業の社会的責任を念頭に置き、上海などの児童福祉施設への乳製品寄贈を通じて、子どもたちの健やかな成長と栄養支援に取り組んできました。今後もさまざまな形で、中日で健康を分かち合える未来を創出してまいります。