中国銘茶探訪(9)
安徽黄茶

2025年4月、安徽茶業協会副会長の孫西傑先生と共に、安徽省のお茶の産地を巡り、黄茶の産地を集中的に訪ねた。黄茶という銘柄は馴染みが薄く、「安徽黄茶」と聞いてもイメージがわかないかもしれない。安徽黄茶の産地はどこなのか? 代表的な銘柄は何か?製法にはどんな特徴があるのか? なぜこれほどマイナーなのか? 順に語っていこう。

マイナーな黄茶

まず、黄茶の概念を整理しておく必要がある。分かりやすくするために、白茶を例に挙げよう。中国の白茶は大きく二つに分類できる。一つは「工芸白茶」で、萎凋後に乾燥させ、炒りも揉みもしない。福鼎、政和、建陽、松溪等の白茶がこれに当たる。もう一つは白化茶樹品種で、有名な安吉白茶がその代表である。芽も葉も一般の茶葉よりも白く見えるが、製法は正真正銘の緑茶に分類される。黄茶も白茶と同様に二つに分類される。一つは品種黄茶である。1997年、浙江省安吉県で茶園を管理する張完林さんが偶然、茶樹の変異株を発見した。葉は一年中黄金色で、乾燥茶葉は薄黄色、茶湯と茶殻は明るい黄色で、一般的な緑茶と比較すると対照的である。10年にわたる選抜育種と研究開発を経て、「黄金芽」は2008年に浙江省の林木品種に認定され、黄色変異茶樹品種となった。今回とりあげる安徽黄茶は、この品種黄茶ではなく工芸黄茶の方である。

では、黄茶の製法にはどのような特徴があるのだろう?―― それは悶黄(後発酵)」である。この製法については後ほど詳しく説明するが、ここでは簡単に触れる。品種黄茶は、乾燥茶葉だけが黄色であるのに対し、工芸黄茶は、乾燥茶葉も茶湯も茶殻も黄色をしている。古書を紐解くと、この悶黄の技法は明代後期には存在し、黄茶の歴史はすでに400年以上にも及ぶことになる。

「そこまで歴史があり、産地も多いのに、なぜ黄茶を飲んだことがないのだろう?」と不思議に思うかもしれない。それも無理はない。黄茶の生産量は極めて少ないからだ。2019年、黄茶の生産量は大きく伸び、前年比で14.78%増加し、2014年と比較すれば212%もの伸びを見せた。数字だけを見ると驚かされるが、この年の中国における黄茶の総生産量は9700トンで、中国全体の茶葉総生産量のわずか0.35%である。希少な銘茶と言われる白茶の2019年の年間生産量は、同年の中国全体の茶葉生産量の1.78%である。白茶も確かに希少ではあるが、それでも黄茶の5倍以上の生産量がある。黄茶がどれほど希少であるか、これでお分かりいただけるだろう。率直に言って、黄茶の生産量は、ほとんど無視できるレベルである。もともと生産量が極めて少ない上に、その多くが特殊な流通経路で消費されるため、口にできないのも当然なのだ。

霍山の黄芽茶

中国全土における黄茶の生産状況について触れたが、そのうち安徽黄茶が、中国黄茶の約4割を占めている。とはいえ、全国規模で見れば、安徽黄茶を探すのはまさに大海の中から針を探すようなものである。実は安徽の黄茶は種類が非常に豊富である。現在の工芸黄茶は、生葉の摘採グレードによって、さらに黄芽茶、黄小茶、黄大茶の3つに分類される。その安徽黄茶の中でも、最も歴史が古いのが霍山黄芽である。唐代・李肇の『国史補』には、「寿州に霍山黄芽あり」と記されている。現在の霍山県は、唐代は寿州の管轄下にあった。つまり、霍山黄芽の名はすでに1000年以上前から存在していたのである。では、唐代の霍山黄芽と現在の工芸黄茶は同じものなのか?これについては正直なところ断定しがたい。現在の霍山黄芽は、過去の名茶を復元したもので、1971年に生産が再開された。高級な霍山黄芽は、芽や葉が美しく揃い、白い毛が密生しており、艶やかな緑色にわずかに黄味が差し、茶湯は黄緑色で澄んでいる。爽やかで、熟れた栗のような香りがする。味わいはまろやかで後味は甘い。茶殻は黄緑色で、均一で厚みがある。

製法や特徴から見ると、現在の霍山黄芽は「烘青緑茶(乾燥加熱型の緑茶)」に近い。実際、霍山黄芽の無形文化遺産の銘板にも「緑茶製法」と記載されている。そのため、学生たちには「黄芽茶を飲みたいなら、まず蒙頂黄茶を選ぶべき」と助言している。霍山黄芽は完全な黄色ではないが、味わいは格別である。茶に詳しい安徽の人たちは、贈答用に霍山黄芽を選ぶことが多い。その理由として、第一に、芽がしっかりと揃っており、高級茶と一目で分かる。第二に、霍山黄芽という銘柄自体が珍しく、話題性がある。第三に、一番茶である霍山黄芽は、黄山毛峰や太平猴魁に比べて価格がずっと手頃である。

 

皖西の黄大茶

黄芽茶は霍山県に集中しているが、黄大茶は皖西全域で生産されている。主な生産地は金寨県と霍山県であるが、六安、岳西、舒城、廬江などでも生産されている。上質な皖西黄大茶は、口当たりが甘くまろやかで、独特の香ばしさが漂う。何杯飲んでも飽きがこず、飲みやすく心地よい。それには、大別山地域の優れた自然環境に加え、独特の製法が大きく関係している。私はこれまで何度か皖西の産地を訪れ、黄大茶の製法を探求してきた。熟練の茶芸師である衡永志、謝旭初、陳華静諸氏の惜しみない指導によって、安徽・黄大茶の複雑で精巧な製法を整理することができた。黄大茶の手作業による製作工程は、殺青、初揉、整形、一次乾燥、堆積、弱火乾燥、強火仕上げと続く。中でも殺青の工程では、高温で酵素の働きを止める。さらに堆積による熱と高温焙煎により、ポリフェノールの非酵素酸化が進み、葉緑素は完全に分解され、茶葉は黄色く変化していく。堆積工程は短くて1週間、長ければ10日以上かかる。不確定要素が多く、些細なミスですべてが台無しになってしまうため、緑茶を作れる職人は多いが、黄茶を作れる茶芸師は極めて少ない。

伝統的な皖西黄茶は、「茎は船を漕げるほど太く、葉は塩を包めるほど大きい」と言われるように大ぶりで、一目瞭然である。私は経験豊富な皖西の茶芸師に依頼し、立夏前後に摘み取られた良質な茶葉を厳選し、丁寧に悶黄処理を施したハイグレードの黄大茶を作ってもらった。黄大茶の素朴な魅力を残しつつも、高級茶の風格を備えたお茶が完成した。その後、このお茶をただ「黄大茶」と呼ぶのはもったいないと感じ、「皖西黄茶」と呼ぶことにした。紫砂壺で丁寧に淹れた皖西黄茶は、味わいに奥行きがあり、グラデーションが楽しめる。もちろん、大きな湯呑にひとつかみ放り込み、熱湯を注ぐだけでも十分美味しい。

手間をかけるもよし、手軽に飲むもよし。

こだわってもよし、気軽に楽しむもよし。(編集協力:周静平)