蘭の香り、東へ――伝統の響きが共鳴する
中国北方崑曲劇院が創価大学で文化交流公演を開催
千年の雅なる調べが、桜咲く日本に響き渡る

2025年5月6日から10日にかけて、中国北方崑曲劇院が初めて創価大学の舞台に立った。600年の歴史を誇る崑曲の雅韻を携え、「牡丹亭」「白蛇伝」などの代表作を上演し、日中の伝統芸術の対話に新たな一ページを刻んだ。

本公演は「演劇を架け橋に」と銘打ち、崑曲ならではの柔らかく流れるような旋律「水磨調(すいまちょう)」を丁寧に再現。能楽の地・日本に、東洋美学の種を蒔く文化の祭典となった。芸術の枠を超えた交流は、日中の文化をつなぐ詩のようなひとときを生み出している。

創価の舞台にて――崑曲の蘭香、心に沁み入る

舞台上には、「中国北方崑曲劇院 創価大学特別公演」の横断幕が、一幅の絵巻のように広がっていた。藍・紫・白の三色の衣装に身を包み、翠色の冠を戴いた役者たちは、手にぼんぼり飾りの扇を持ち、一挙手一投足、一顰一笑に至るまで、細やかな演技で観客を魅了した。

『牡丹亭』では、杜麗娘が「園林に行かずして、春の色の美しさがどうしてわかりましょうか」と嘆く場面に、観客の心が静かに揺れた。『白蛇伝』では、許仙と再会した白素貞が断橋の上で涙を流す場面が詩のように情感豊かに描かれ、場内は温かい拍手に包まれた。

会場を埋め尽くした創価大学の学生たちは、ある時は「遊園」の場面に描かれた春の色彩の美しさに目を見張り、またある時は「断橋」の一途な愛の歌声に深い感動を覚えていた。崑曲という東方の古典芸術は、異国の若者の心にも、確かな余韻を残したのである。

カーテンコールでは、北方崑曲劇院の俳優たちとともに、株式会社光プロ代表取締役の馬東宏氏が舞台に立ち、並んで花束を捧げた。その姿は観客の注目を集め、カメラの焦点となった。観客席では、創価大学の教職員や学生たちが両手を掲げて歓声を上げ、シャッター音と拍手が入り混じる中、会場は熱気に包まれた。この瞬間、崑曲は単なる中国の「百戯の祖」にとどまらず、言語や国境を超えて響き合う文化の共鳴として、観る者の心に刻まれたのである。

周桜の下で、日中の友好は新たな章へ

創価大学のキャンパスには、日中友好の象徴とされる「周桜」が力強く育っている。今から50年前、新中国からの第1期留学生と創価大学の在学生が、友情の証としてこの桜を共に植えたものである。そして半世紀を経た今日、北方崑曲劇院の一行がその足跡をたどり、同じ場所を訪れた。

劇院の関係者は学内を散策しながら、日中演劇交流の歩みと歴史の深みに触れた。桜の花が静かに咲く中で、過去から現在、そして未来へと続く両国の文化的つながりが、あらためて心に刻まれるひとときとなったのである。

大阪・関西万博「こんにちは、北京」――文化と観光の魅力発信

日本の大阪・関西万博において、「北京イベントウィーク『こんにちは、北京』」が華やかに開幕した。国内外の来場者が積極的に参加し、北京ならではの文化と観光の魅力を体験している。

本イベントは「美しい北京、万博に花を咲かせる」をテーマとし、多様な形式を通じて北京の文化を紹介することで、海を越えた文化交流の場を創出している。期間中には、「こんにちは、北京」文化・観光紹介会をはじめ、「こんにちは、北京」写真展、非物質文化遺産の展示およびインタラクティブ体験、「こんにちは、北京」文化公演など、内容豊かな催しが次々と展開されている。万博会場内の中国館は、こうした展示によってまるで「流れる北京の縮図」のような空間となり、訪れる人々に深い印象を与えている。

開幕式では、北方崑曲劇院の若手実力派俳優である高陪雨氏、趙芸多氏、劉展氏、張暖氏が出演した『白蛇伝・遊湖』が上演された。繊細で優美な舞台は、まるで水墨画のように美しいと観客を魅了し、感嘆の声が上がった。会場では多くの来場者が次々と携帯電話を取り出し、その一瞬を記録しようとした。

万博会場内では、崑曲のほか、漢唐舞などの演目も次々と披露され、文化の融合が観客同士の交流を深める「絆」となっていた。これらの上演を通じて、崑曲が体現する東方美学の世界観や、現代社会における非物質文化遺産としての力強い生命力と感動を、各国から訪れた観光客に強く印象づけた。

今回のプロモーション活動は、単に北京の文化・観光資源を紹介するにとどまらず、文化交流を通じて国境を越えた理解と共感の架け橋を築く取り組みでもある。

昆曲と能――千年の美学が時空を超えて交わる

5月9日に開催された芸術シンポジウムにおいて、昆曲と能楽が時代と文化の枠を超えた対話を繰り広げた。

日本の能楽を代表する八田氏は扇を手に取り、北方崑曲劇院の芸術家たちに対して、「幽玄」という美学の極致を実演した。これに応えるように、北昆の一級俳優・朱氷貞氏は、水袖を用いた優雅な所作で、昆曲における「欲左先右(左に欲して右に先んず)」という身の哲学を体現した。昆曲と能、それぞれが育んできた千年の身体技法と精神性が、舞台上で交錯し、静かで深い美学の共鳴を生み出したのである。

両国の芸術家たちは手を取り合って笑顔を交わし、伝統芸術が受け継いできた千年の知恵が、指先を通じて静かに流れていった。

八田氏が能の演目『羽衣』に登場する「翁」の面をかぶり、幽玄の世界を詠じた。一方、北方崑曲劇院の若手俳優は、蘭の花を思わせる優美な指使いで、『遊園驚夢』に登場する少女の春を想う恥じらいの表情を再現した。

能の「序破急」という時間構成と、崑曲の「一板三眼」の旋律構造が出会ったとき、無地の狩衣と、繊細な蘇繍(そしゅう)を施した崑曲の衣装が同じ舞台空間を共有したとき、両国の無形文化遺産の継承者たちは驚きをもって口をそろえた――「私たちは皆、身体で詩を書いているのだ」と。

「崑曲の『仮想写意(かそうしゃい)』と、能の『空(むな)しく寂(さび)しい美』は、水墨画と枯山水のように、表現は異なれど同じ旋律を奏でている」――そう語られたシンポジウムの最後には、今後、相互の現場交流や人材の往来を通じて、両国の伝統芸術を現代に生かし、さらに輝かせていくことが確認されたのである。

文化という櫂(かい)で、東洋美学の生態系を築く

5日間にわたる交流の中で、北方崑曲劇院の一行は、汗を流しながら友情の花に水を注いできた。来日直後からリハーサルに臨み、本番前には舞台照明の角度を何度も確認し、より良い舞台づくりに尽力した。公演を終えた舞台裏の廊下では、日本の学生たちと作品の世界観や物語を語り合い、シンポジウムでは芸術的な感性をぶつけ合い、互いに刺激し合った。

東京の夜空を翔ける帰国便の機内で、出演者たちはファンから贈られた折り紙の桜をそっとなでながら、創価大学の会場にこだました拍手の余韻を、静かに胸に響かせていた。

北方崑曲劇院の楊鳳一院長は、「昆曲の海外公演とは、一方的な文化輸出ではなく、柔軟な姿勢で文明間の対話に参加することに他なりません」と語る。今後、同劇院は「蘭韻(らんいん)」を文化の舟とし、能楽や歌舞伎など東洋の伝統芸術と結びつきながら、伝統美学がともに息づく関係の構築を目指していくという。本当の文化への誇りとは、まさにこのような交流と対話を通じて育まれていくものである。