近年、日本が長期にわたって続ける低金利政策と安定した不動産市場環境により、多くの華人投資家が日本の不動産市場に参入している。国土交通省の「土地取引動向調査」や公益財団法人東日本不動産流通機構(REINS)のデータによれば、2021年以降、外国人による不動産購入比率は年々増加しており、主な購買層は中国本土、香港、台湾の投資家が占めている。
本稿では、ローンの仕組みと為替リスク管理の両面から、華人投資家による日本不動産購入時の主な手法とリスク対策について分析する。
金融庁(FSA)が2023年に公開した銀行融資データによると、現在でも日本の五大銀行(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行)は、外国人の住宅購入者に対してローンを提供している。ただし、合法的な在留資格と安定した収入源を有していることが前提条件である。
特に、在日歴が2年以上あり、「永住権」や「高度専門職ビザ」を保有する華人は、ローン審査の通過率が年々上昇している。
主なローン商品は以下の通り:
10年固定型住宅ローン:多くの華人が選択する商品で、2024年時点では初期10年間の固定金利が年0.7%~1.3%の範囲(三井住友信託銀行の商品情報より)。
変動金利型ローン:2024年現在の平均金利は約0.475%(三菱UFJ銀行ベース)だが、将来的な金利上昇リスクを懸念して、選択を控える傾向もみられる。
融資割合と期間:物件評価額の70%~100%、最長で35年の返済期間が設定可能。
初めて住宅を購入する華人の場合、銀行は収入額だけでなく、納税実績、勤務先の信用力、クレジットスコア(信用情報)などを総合的に審査する。近年では、新生銀行やauじぶん銀行など、一部の金融機関が非対面型のオンライン審査サービスを提供しており、華人購入者にとってローンの取得が容易になりつつある。
自宅以外の投資物件、たとえば短期宿泊施設(特区民泊)、一棟アパート、店舗物件などに関しては、銀行は一層慎重な融資姿勢をとっている。
りそな銀行が2023年に発表した投資用不動産ローン報告書によると:
融資割合:50%~70%程度に制限
金利水準:年2.0%~3.5%
必要書類:詳細な事業計画書とキャッシュフロー予測書の提出が求められる
大阪や京都など観光需要の高いエリアでは、地元の金融機関が「日本法人を持つ華人投資家」に重点を置く傾向がある。多くの投資家は、「GK+TKスキーム」を用いて法人を設立し、法人名義で物件を保有。会社資産を担保にすることで、税務上のメリットと融資承認率の向上を同時に図っている。
また、注目される手法として、「クロスボーダー融資」がある。一部の富裕層華人は、シンガポールのプライベートバンクや香港のファミリーオフィスを通じ、海外資産を担保にして日本円を調達し、日本国内の不動産を取得している。この方式は日本の地銀などが外国人に対して持つ制約を回避できるが、高い信用評価と確かな資産状況が求められる。
長期にわたる円安は、外資が日本の不動産市場に注目する大きな要因である。一方で、為替変動が与えるコストインパクトは見逃せない。たとえば、人民元対円レートは2021年初の1元=16円台から2024年末には21円超に達し、わずか3年間で購買コストに約30%の差が生じた。
この為替リスクを軽減するため、華人投資家は以下の手法を活用している。
1、為替ヘッジ商品の活用:一部の投資家は海外のプライベートバンクを通じて、フォワード契約・スワップ・オプション商品などで為替コストを固定。
2、マルチカレンシー口座の活用:香港、マカオ、シンガポールなどで円建て口座を開設し、複数回に分けて円を送金することで時間的リスクを分散。
3、人民元建てローンでの円資産取得:一部の海外金融機関では、人民元担保のストラクチャード・ローンを提供。人民元で日系不動産を購入し、円の変動を間接的にヘッジ。
4、資産・負債のナチュラル・ヘッジ:オフショア拠点でのホールディングス設立により、資金調達と投資先の通貨を一致させ、為替変動の影響を抑える。
近年では、日本国内の一部金融機関も、外国籍投資家向けにマルチカレンシー(多通貨)対応の住宅ローンを提供し始めており、為替管理の選択肢は広がっている。
在日華人による不動産購入は、より合理的かつ構造化された投資行動へと進化している。ローンの選定から為替ヘッジの手法に至るまで、投資家は国内外の金融リソースを活用しながら、資金効率を高め、システミックリスクの軽減を図っている。
今後、日本の金利が正常化へと向かい、規制環境が変化する中で、ローンコストが上昇する可能性もある。華人投資家は引き続き日本の金融政策動向に注視し、人民元・外貨資産のバランスを見直しながら、中長期的な収益安定を目指す必要がある。
また、日中間のクロスボーダー投資・融資に精通した専門アドバイザーの役割が、今後ますます重要になると予想される。
神月 陸見 Mathilda Shen
フィングループ株式会社の代表取締役社長。金融学と哲学の修士号を持っており、復旦大学証券研究所の講師、 Project Management Professional (PMP) 、上海華僑事業発展基金会のファンドマネージャー。
Email: mathilda.shen@finlogix.com
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