「農業用地の土壌改質と再生可能エネルギーの技術活用に関するシンポジウム」が東京大学で開催

4月9日、国際土壌・エネルギー・環境イノベーション連盟主催による「農業用地の土壌改質と再生可能エネルギーの技術活用に関するシンポジウム」が、東京大学弥生講堂で開催された。日中両国の新エネルギー、バイオサイエンス、材料科学、メディアなど各分野から専門家が集い、環境問題の解決に向けた協働の可能性について議論が交わされた。

国際土壌・エネルギー・環境イノベーション連盟理事長であり、中国能源緑色建材・董事長の蒋洋氏が開会の挨拶を行った。氏は、地球規模で環境問題が深刻化する中、今回のシンポジウムが「土壌改質」と「持続可能な農業」に焦点を当て、再生可能エネルギーと資源循環の理念を融合させた対応策を探るものだと説明した。世界人口の増加により食料安全保障への懸念が高まる一方、耕地の砂漠化は年間600万ヘクタールのペースで進行しており、中国でも塩害地の拡大が深刻な課題となっている。30年前に、現在は東京大学名誉教授である松本聰氏が中国で実施した塩害地改良技術は近年の実地検証でもその有効性が改めて確認されている。また、中国側の中国能源緑色建材が様々な機関と連携して開発した「光転換Film+垂直Solar」の技術は強い日照を再生可能エネルギーに転換しながら水分の蒸発を抑制することで、農業の省エネ・節水・スマート化を促進する取り組みであることを紹介。さらに、改良過程で得られる塩分を活用し、砂漠地帯での陸上養殖事業を通じて水産業と農業を結びつける、資源循環型の農業システム構築にも言及。中国能源グループが培ってきた技術を基盤に、日中が協力して持続可能な農業、再生可能エネルギー、そして循環型社会の実現に取り組みたいとの意向を示した。

続いて、NICO(天然資源循環国際協会)会長であり、日本土壌協会の前会長でもある松本聰・東京大学名誉教授が、今回のシンポジウム開催の経緯とその意義について説明した。先月の中国訪問で中国能源緑色建材を視察した際、その先進的な取り組みに深い感銘を受けたという。視察を通じて、松本氏は三つの重要な課題を提起した。一つは、中国における大規模な塩害地の改良、二つ目は太陽光エネルギーの有効活用、そして三つめは、改良後の土地をいかに適切に管理するかという点である。あわせて、日本土壌協会が推進する「土壌医」制度を紹介し、東京大学に多数在籍する中国人留学生が、この制度を将来的に中国に導入・活用していくことへの期待を寄せた。

中国駐日大使館科学技術部参事官の洪志傑氏は、松本聰氏が中国の黄淮海流域の土壌改良に貢献したことに謝意を述べるとともに、中国政府より「友好賞」が授与された経緯を紹介した。また、蒋洋氏に対しても謝意を示した上で、中国の耕地面積19億ムー(約1億2700万ヘクタール)のうち、わずかか43%しか適切に改良されておらず、依然として課題が多いことを指摘し、土壌の持続的な保全と改善に向けて、関係者の注目を喚起した。さらに、片倉(上海)農業科技有限公司など、日系企業による中国での取り組み事例を紹介し、両国協働の成果を伝えた。

株式会社MOAI代表取締役の平良香織氏は「中国で展開する日本の技術について」と題して講演し、世界的に高まる肉類需要が飼料や水資源に大きな負担をかけていると指摘。飼料やバイオ用途への転用で、食料生産の農地が圧迫されている現状や、気候変動の深刻化にも言及し、国連が中国を、水資源不足が深刻な国の一つに挙げていることを紹介。こうした課題に対し、技術と自然を融合させた循環型経済の構築を提唱し、劣化した乾燥地を耕作可能な土地へと転換することが最優先の課題だと強調した。講演では、塩害土壌の改良、玄武岩繊維を活用したバイオ炭の製造、半反射フィルムを使った垂直型ソーラーファーム、さらに塩水を利用した内陸部での陸上養殖といった、複数の相補的な技術を紹介し、地域の課題に応じた循環型プロジェクトとしての展開を示唆した。

続いて松本聰会長が「新しい産業創造である塩類土壌改良事業による課題について」と題して講演を行い、中国の塩害地面積が日本国土の2倍を超えると言う現状とその社会的な重要性を強調した。講演では、具体的な実施方法や課題への対応策について詳しく説明した。

日本土壌協会専務理事の瀬川雅裕氏は、同協会が推進する「土壌医」検定制度について紹介し、土壌の健全化と持続可能な農業の実現に向けた人材育成の取り組みを説明した。講演では、堆肥やバイオスティミュラント(生物刺激剤)の栽培試験と評価、土壌や堆肥の多面的な分析、技術専門誌の発行、AIを活用した診断データベースの開発といった多岐にわたる活動を紹介。また、2012年にスタートした3段階の認定制度の概要にも触れ、農業法人、JAグループ、自治体、大学・農業学校など、受験者層の広がりについても言及した。さらに、同協会は地方土壌医協会の設立や、実地測定、産学連携による知見と経験の共有を促進しており、国の「みどりの食料システム戦略」との連動を背景に、制度の社会的重要性が高まっていると述べた。

シンポジウム終了後には、日中両国の学者や専門家、業界関係者らが土地改良・資源循環・農業の持続可能な発展における日中企業の取り組みをめぐり活発な意見交換を行った。複数の企業代表が具体的な課題を提示し、自社の実践経験や技術的成果を共有するなど、会場は熱気に包まれた。中関村衆信土壌修復産業技術連盟の高傑秘書長が閉会の挨拶に立ち、土壌改良は農業の発展にとどまらず、生態環境とも深くかかわる重要なテーマであると強調した。また、現地視察を歓迎する意向を示し、日中間の実質的な交流と協力が一層深まることに期待を寄せた。

現在、世界は気候変動、環境汚染、エネルギー不足、生物多様性の喪失といった地球規模の課題に直面しており、異常気象の頻発や環境悪化が深刻さを増している。こうした状況の中で、人類は国境を越えて知恵と力を結集し、協力して立ち向かうことが求められている。今回のシンポジウムをきっかけに、日中両国が土壌改良や再生エネルギーの活用、農業のグリーン化といった分野で、より緊密で実効性のある協力を進めることで、両国はもとより、地球全体の農業や環境保全の取り組みに、新たな活力がもたらされることが期待される。