どのようなお茶を飲むかは、その人の食生活によって決まる。腸内に油分が少ないと、3杯のお茶で酔ってしまい、とても楽しめない。中国西北地域では肉食や乳製品が多く、新鮮な野菜や果物の摂取は少ない。そのため、お茶を多く摂らなければ便秘や高血圧、高脂血症、高血糖といった生活習慣病に陥りやすい。
明末清初の学者・顧炎武は『天下郡国利病書』で、「脂っこい肉には茶が不可欠、大麦の熱も茶でしか取れない」と記している。お茶がもっとも飲まれているのは、華南の茶屋街でも西南の茶文化圏でもなく、実は陝西、甘粛、青海、寧夏、新疆、内モンゴルなどの西北地域なのである。
中国茶は大きく6つに分類されるが、西北地域でもっとも流通しているのは後発酵茶の黒茶である。黒茶は原料や製法の違いにより、黒磚茶、花磚茶、茯磚茶(ふくせんちゃ)、米磚茶、青磚茶、康磚茶、金尖、天尖、毛尖、芽細などに細かく分類される。中でももっとも有名なのは、やはり茯磚茶だ。
茯磚茶の製法は極めて複雑で、まず品質の高い黒毛茶を選び、ふるい分け、裁断、風力選別、不純物除去の後、茶葉を積み重ねる。さらに、渥堆(茶葉に水を撒いて常在菌による発酵を促す)、高温殺菌、圧縮、定型化、乾燥など、数多くの工程を経る。特に乾燥では、体に良いとされる微生物が発酵に関与できるよう、低温でじっくり焙煎する必要がある。
完成した茯磚茶の茶湯は赤橙色で、香りは澄み、味はまろやか。長時間蒸らしても苦みが出ず、濃厚でありながらくどくない。血中脂質を下げ、消化を助け、新陳代謝を促す効果があるとされている。
製法の次に、規格について述べよう。茯磚茶は辺境地向けのお茶に分類され、主に中国西北地域で消費されている。現地では毎日大量に飲まれるため、かつての磚茶(たんちゃ=固形茶)は非常に大きく、1個あたり約3㎏もあった。その後、生活の向上に伴い原料の質が高まり、サイズも3㎏から2㎏、1㎏と徐々に小型化していった。筆者は1980年代に湖南省益陽茶廠で製造された500gの特製茯磚茶をひとつ所蔵しているが、当時はかなりの高級品だった。また、2013年製の浙江省産「荷香茯磚」はわずか180gの楕円形。のぼせを抑え消化を助けるハスの葉を加え、茶葉とともに発酵させた。芳醇な茶湯にハスの香りが調和し、まさに茯磚茶の逸品である。一般に、サイズが小さいほど原料の質は高いとされている。
以前、北京人民ラジオ局でお茶講座を担当していた際、リスナーからこんな声が寄せられた。「友人から茯磚茶をもらったのですが、割ると中に黄色い粒がたくさんあり、カビではと疑っています。そんなお茶を贈るなんて失礼では?」と。送られてきた写真を見ると、茶磚には黄色い粒が群生していた。一見カビにも見えるが、これは「金花」と呼ばれるものである。
金花とは、茯磚茶の内部に自然発生する金色の粒状の菌で、学名を「冠突散囊菌」という。この菌は茶葉の基質を複雑に代謝・変化させながら成長し、酵素を分泌して酸化や分解、重合、形質転換を促す。その産物が金花と相まって、茯磚茶特有の色、香り、味を生み出している。「菌花香」と呼ばれるゆえんである。甘く芳醇な味わいも、金花による複雑な変化のたまものだ。筆者はリスナーにこう答えた――「それはカビではありません。あなたの茯磚茶はむしろ高級品です。贈ってくれた友人に感謝すべきです」と。
金花の存在は茯磚茶の品質を保証するものであり、金花が多いほど上等とされる。ただし強調しておきたいのは、「三尖三磚一巻」と称される安化黒茶の中で、自然に金花が生じるのは茯磚だけだという点である。ところが近年、一部の業者が「健康に良い」として、「金花千両」「金花百両」「金花黒磚」などを売り出し、さらに福鼎では「金花白茶」まで登場した。自然の金花は美しいが、人工のものはどこか不自然である。いずれ「金花紅茶」や「金花緑茶」まで現れるかもしれない。
自然に発生した金花と人工的につくられた金花は、機械で検査しなくとも容易に見分けられる。自然の金花は粒が細かく淡い黄色で、人工のものは粒が大きく濃い黄色をしている。この見極め方は、朱泥焼の紫砂壺にも似ている。朱は赤を意味するが、良質な原鉱は橙がかった赤であり、真っ赤な朱泥壺は化学的に加工されたものだ。本物の茯磚を選ぶなら、茶磚を割って中を見てみよう。金花が大きく濃いものは注意が必要である。
もっとも、商人が金花を偽るのも無理はない。というのも、金花という有用菌のおかげで、茯磚茶は身体に良いとされているからだ。2013年10月16日、中国長寿協会が発表した「中国長寿ランキングトップ10」では、1~3位を新疆出身者が占め、トップ10のうち5人が新疆出身だった。人口2,200万人の新疆には、80歳以上が20万人、100歳以上も1,400人にのぼり、その9割が南部に集中している。彼らは例外なくお茶を愛飲しており、新疆が安化茯磚の主要消費地であることから、高齢者の長寿と茯磚茶は深く関係していると考えられる。
当然、お茶の健康効果はゆるやかに現れる。本気でお茶で養生したいなら、「質」と「量」の両方を意識すべきだ。まずは、製造工程が確かで保存状態の良いものを選ぶこと。そして、飲む習慣を日常に根付かせること。三日坊主では効果はなく、「一日たりともお茶なしではいられない」という生活でなければ意味がない。
ただ近年、良心を欠いた業者が、茯磚茶の健康効果を過剰に喧伝している。あたかも茯磚茶を飲めば、降圧剤やメトホルミンが不要になるかのような言い方だ。読者諸君には、そうした宣伝に惑わされないでもらいたい。茯磚茶がいかに優れていようと薬ではなく、病気を治すものではない。異変を感じたら、茶屋ではなく病院へ行こう。
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