今年もアートフェア東京が開催された。初日のVIP向けファーストチョイスの日に慌ただしい会場でフランシス真悟を取材することになった。
フランシス真悟は、芸術家の両親のもとに生まれた。日本のビデオ・アートの草分け的存在である出光真子を母に、アメリカ抽象表現主義の画家サム・フランシスを父に持つ彼は、日本の東京とアメリカのロスを行き来しながら育ち、今でもアメリカのロスと日本の東京の二拠点生活を続けているが、子供の学校が日本にあるため、現在は日本で過ごす時間が比較的に長めだという。
アートフェアの会場ではさすがに落ち着いて取材するのが難しいので、近くのイタリア料理店に移動し、雑談のようなカジュアルな取材を試みた。
国際的な環境とアートが日常にあるのは、実に羨ましいことだ。昨年、茅ヶ崎市美術館で偶然目にした壁一面の「Daily Drawing」シリーズは、とても新鮮だった。コロナ禍のロックダウン中、ロスの友人宅に滞在していた彼は、スタジオに画材を取りに行く余裕もなく、限られた条件の中で日記のように描き続けた作品は、従来の綿密に計画された作品とは異なり、どこか解き放たれた「自由」が感じられ、新鮮に映った。
哲学的な思考のもとに青一色で塗り込めた画面によって瞑想的な空間を作り出す「Blue’s Silence」シリーズや、二次元の絵画の中に多次元な世界をイメージさせる「Infinite Space」シリーズ、ドローイング・インスタレーションの「Bound for Eternity」シリーズなど、1980年代初期からの多様な絵画作品、約100点が一堂に会する展覧会だった。湘南に一人ぶらっと訪れた際に、偶然立ち寄った美術館で出会った真悟さんの展覧会。思いがけず目にしたその作品に、嬉しい驚きを覚えた。
そして、真悟さんとは初めてお会いしているのにもかかわらず、まるで昔からの旧友に再会したような懐かしさを感じた。少年時代、13歳の時にご両親が離婚し、父親が住むロスに移ったことや、その後日本に戻って横浜にスタジオを構え、つながりを持ち始めた横浜のBankARTや横浜美術館の話など様々なエピソードを聞くことができた。
「Interference」は、光干渉顔料を用いた真悟さんの作品群のシリーズ名である。この蝶の鱗粉のように薄い素材は、光の干渉によって色層を浮かび上がらせるもので、アーティストはその微細な変化や色彩の振れ幅によって、自然界、ひいては宇宙的な波長を捉えようと試みてきた。興味深いことに、このInterference素材は工業材料(金属やプレキシグラス)として使用されていたが、1960年代にカリフォルニアを中心に広がった「ライト&スペース・アート」のムーブメント現代アートの作家たちは、作品制作の素材として使用し、物語やメッセージ性を排し、単純な幾何学的形態を採用することで、芸術家の手作業を全く感じさせない表現を追求した。これは、1960年代の最も重要な美術動向の一つであるミニマル・アートの代表的な流れを汲んでいる。そのムーブメントは、絵の具メーカーにも影響を及ぼし、作品用ペンキや、アクリル絵の具、油絵の具の開発にまで波及した。
Installation view : Shingo Francis “Exploring Color and Space” at Chigasaki City Museum of Art, Kanagawa, Japan, 2024
▲Photo by Keizo Koku 木奥恵三 Courtesy of MISA SHIN GALLERY
真悟さんは、サーファーでもあり、波に乗る際に見える海の層は、光によって大きく変化するという。その光の変化が新作シリーズのインスパイアにもなった。茅ヶ崎市美術館での全館を使った大規模な個展は、彼にとって日本国内初の大規模な個展となった。
「Interference」シリーズは、自然光が入るスペースに展示され、空間とコミュニケーションをとるような向かい合う形で「Infinite Space」シリーズが選ばれた。作家によれば、このシリーズは色そのものを空間として扱う作品だと言う。光り輝く色彩の変化の中で、「円」と「四角」は神々しい佇まいを見せる。ジョセフ・アルパースは著書『インタラクション・オブ・カラー』(1963年)で、「色の組み合わせによって見え方が変わり、隣り合う色同士が相互に影響し合う」と述べている。この言葉に影響を受けて茅ヶ崎の海岸に広がる光る砂浜をイメージし、光の反射によって、光と色の複雑な関係性を表現している。この「Radiant reflection(golden blue)」は、カラースペクトラム上で対に位置する黄色と青を基調とした作品で、赤も用いている。何層かにレイヤリングして描いているので、モチーフの正方形のエッジに赤が見えたり、角度によっては青の下に赤が感じられたりもする。この光と色の複雑な関係性は、あたかも人と人との複雑な関係に似ている。
人間は複雑な総合体だ。様々な側面を合わせ持ち、絡み合って解けない糸の塊のようにも見えるが、だがそれを乗り越えたり、許しあったり、恨みあったりするのもまた人間だ。複雑だからこそ興味深く泥臭い。どんなに複雑に絡み合った関係性も、「死」の前では取るに足らない。ロスの山火事で彼の周りの人々が家や作品、スタジオを焼失するなど、悲劇に見舞われたという。私たちもまた、コロナ禍の三年間、「死」を身近に感じていた。非常事態の中でも私たちは何かを作り続けていた。そして、「生きる」ことの尊さをあらためて切実に感じたのかもしれない。
洪欣
東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。
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