白茶は、ほんのりとした甘みと爽やかな香り、涼やかな喉ごしが特徴で、お茶好きの間では人気がある。福鼎は中国福建省の東部に位置する有名なお茶の産地で、緑茶や紅茶に加えて、上質な白茶の産地としても知られている。中国の白茶は福鼎が先駆者となって、名茶がひしめく中で頭角を現し、その地位を確立してきた。今では、中国国内における知名度は、龍井茶やプーアル茶にも引けを取らない。白茶の普及において、福鼎が果たした役割は極めて大きい。現在、福鼎は中国最大の白茶の産地であり、中国の白茶を理解したいなら、まず福鼎白茶から始めるべきであろう。
ここ数年、中国中央人民放送や中国中央テレビから何度も声がかかり、白茶を紹介してきた。それだけ、白茶に対する関心は高まっている。番組では、必ずと言っていいほど、司会者から「福鼎白茶を選ぶコツを教えてください」ときかれる。これはそんなに難しいことではない。福鼎白茶を買う際には、ぜひお店の人に茶樹の品種を尋ねてみてほしい。では、茶樹の品種がどれほど重要なのか。例えば、同じ刺身でも、サーモンとマグロでは味はまったく異なる。魚の種類が違えば、当然味も異なる。お茶も同じである。茶樹の品種が異なれば、出来上がる白茶の風味も変わってくる。
その後、生徒たちは、実際にお店で「この白茶の茶樹の品種は何ですか?」と尋ねるようになった。すると、最も多い答えは「うちの白茶は白茶の木から作っています」というものであった。笑い話のような素人発言である。そもそも、「白茶の木」というものは存在しないし、「黒茶の木」もない。ひとつの茶樹から摘み取った生葉は、製法によってお茶の種類が変わってくるのである。ただ、どんな茶樹にも「向いている製法」と「向いていない製法」があり、これを茶学では「適製性」と呼ぶ。ひとりの人間にも、得意な仕事と苦手な仕事があるようなものである。店主が、手元にある白茶の茶樹の品種さえ分からないようでは、プロとして失格である。自らが扱っている商品の基礎知識も持ち合わせていないとすれば、どんなに自慢げに商品を語ったとしても、信頼性はない。
では、伝統的な白茶には、どの品種が使われているのか。産地によって状況は異なるため、一つずつ見ていこう。現在、主に使われているのは「福鼎大毫」という品種である。福鼎大毫は「華茶2号」とも呼ばれ、1985年に全国農作物品種審査委員会によって国家級優良茶樹品種に認定された。この茶樹は、福鼎市点頭鎮の汪家洋村を原産地とし、100年以上栽培されてきた。現在、汪家洋村には「大毫茶母樹園」が整備され、お茶愛好家の名所となっている。福鼎大毫から作られる「白毫銀針」は、銀のように白く、清々しい香りとまろやかな味わいが特徴の希少な逸品である。現在、福鼎白茶の9割が福鼎大毫から作られている。
福鼎白茶をもっと深く知るには、福鼎大毫だけでなく、「福鼎大白」についても知る必要がある。福鼎大白は福鼎大毫の“先輩”にあたる品種で、1985年に国家級優良品種に認定された(「華茶1号」とも呼ばれる)。この品種から作られる白茶は、瑞々しい茶湯と豊かな旨みが最大の特徴だ。ただ、致命的な弱点がある。それは、収量が少ないことだ。摘採に同じ労力を費やしているのに、収量が各段に少ないため、茶農家の栽培意欲は低下していった。そのため、1980~90年代以降、福鼎大白は次第に福鼎大毫に取って代わられ、伐採や抜根が進み、現在では、福鼎大白の作付面積は全体の1割にも満たない。福鼎大白から作られる「白牡丹」は、味わいが濃厚で、長期保存する価値がある。お茶好きの方は、この希少な白茶「福鼎大白」にもぜひ注目してほしい。
福鼎大白よりもさらに作付面積が少ないのが「福鼎菜茶」である。「菜茶」は「土茶」とも呼ばれ、茶樹は種子繁殖によるものだ。この茶樹こそ、福鼎茶区の“古株”とも言える存在で、福鼎大白や福鼎大毫も、この菜茶の中から選ばれた品種である。種子繁殖が続けられてきたため、ひとつの茶園の中にも背の高いものや低いもの、太いものや細いものが混在している。
福鼎菜茶は、性質がそれぞれ異なるため、特長も如実である。まずひとつは、個性の強さである。エリアごとに茶葉の特徴は異なり、村ひとつ隔てるだけで、白茶の風味はまるで違ってくる。お茶愛好家の皆さんは、ぜひ福鼎菜茶にも注目していただきたい。茶湯にはそれぞれ個性があり、思わぬ驚きと感動を与えてくれるはずだ。もうひとつの魅力は、濃厚な味わいである。種子栽培による茶樹はそれぞれ異なる特徴を持ち、それらがブレンドされているためだ。しかも、ブレンドマスターは自然である。美味しくないはずがない。
では、福鼎菜茶に欠点はないのか。もちろんある。何年も前、福鼎を訪れた際、偶然、小さな菜茶の畑を見つけた。持ち主は地元の古参の茶師・周さんで、暇なときに摘んで、忙しい時は放ったらかしにしていた。ここのお茶が面白かった。芽吹くとき、芽先がほんのり紫色に染まるため、地元のお茶農家は「紫芽白茶」と呼んでいた。このお茶に出会ってから、私は毎年少しずつ作るようになった。ところが、これがとんだ“沼”だった。紫芽白茶に使われる菜茶は、概ね山地で育ち、その葉は驚くほど薄くて細かい。摘採が非常に難しく、熟練した者でなければとても摘めない。苦労して摘んでも歩留まりが悪い。2023年は、紫芽白茶の生葉を250kg収穫したが、完成した乾燥茶を量ってみると40kgにも満たなかった。一般的な白茶であれば、生葉2.25㎏から500gの乾燥茶が生産できるため、250㎏の生葉からは、少なくとも55㎏の乾燥茶が生産できる計算になる。福鼎大白の収量は少ないと言われるが、福鼎菜茶はさらに低収量である。ついでに愚痴をこぼせば、この紫芽白茶の生葉は薄くて軽いため、製茶された茶葉も見るからにもろそうで、まったく見栄えがしない。お茶のことを知らない人が見れば、ただの枯れ葉にしか見えないかもしれない。
そこまで手間のかかる菜茶を、なぜ作り続けるのかと疑問に思うだろう。確かに、福鼎菜茶は摘採が難しく製茶も難しい。見た目も決して美しいとは言えない。だが、それでも作り続ける理由がある。それは、何より味が素晴らしいからである。たとえば、この紫芽白茶であるが、乾燥茶の袋を開けた瞬間、花や蜜のように甘くフルーティーな香りが鼻腔をくすぐる。その香りは一度嗅げば忘れられないほどである。茶湯は、甘い香りと滑らかな喉ごしが格別で、味わいは複雑かつ多彩である。ひと口ごとに表情が変わり、一煎ごとに新たな風味が現れるため、何度飲んでも飽きることがない。さらに、長期の保存を経ても、茶湯の豊かな味わいは衰えるどころか、より一層深まる。筆者はここ数年、福鼎ならではの紫芽白茶を作り続けてきた。この古くから受け継がれてきた茶樹の味わいを次の世代に伝えていきたいと考えている。
福鼎の茶農家が、生産効率を考えて、こうした希少な品種を手放していくのは、やむを得ないことではある。しかし、お茶を愛する者として、こうした福鼎の希少な白茶にも目を向ける価値があると考える。結局のところ、「美味しいお茶こそが良いお茶」なのである。
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