3Dプリンター住宅は大地震に耐えられるのか

河北省三河市燕郊経済技術開発区にある中国地震局工程力学研究所(工力所)のサイエンスパークで、スマート建築や耐震工学の専門家チームが「破壊実験」に取り組んでいた。振動台の上では、3Dプリンターで造られた住宅模型の耐震テストが進行中。浙江大学や大連理工大学、工力所の教員・学生らがその様子を見守っていた。

なぜ、このテストが必要なのか。どのように実施されるのか。そして、3Dプリンター住宅はどの程度の地震に耐えられるのか。その答えを探るため、最先端の耐震実験が行われている現場に迫った。

耐震テストは
建物が壊れるまで行う

工力所のサイエンスパークには、耐震テストで破壊された住宅模型が並んでいる。「これらはすべて、われわれの実験で壊れたものです」と語るのは、博士課程の趙登科氏だ。

今回の耐震テストの対象は、浙江大学の孫暁燕副教授のチームが3Dプリンターで建造したコンクリート住宅模型。原型となる建物は河北省にあり、業界関係者や地元住民の関心を集めている。

「3Dプリンター住宅は本当に丈夫なのか?」――この問いに答えるため、孫副教授は霊砼科技(杭州)有限公司と協力し、理論上の耐震性を確認。だが、シミュレーションだけでなく、実験による検証が不可欠と考えた。そこで振動台を使った耐震テストを実施することを決定。実物の建物を運ぶのは困難なため、工力所の振動台に合わせた縮尺模型(長さ5メートル、幅1メートル)を特注で製作した。

テストは6つのモードで行い、各モード7回ずつ振動を加える。「どこまで耐えられるか、壊れるまで揺らします」と孫副教授は語る。実験が始まり、2つ目のモードまでは目立った亀裂は確認されなかった。

最先端の耐震テスト設備

振動台は、地震の揺れを再現する装置だ。今回使用された3次元6自由度振動台は、上下・左右・前後の並進3方向に加え、各軸の回転3方向を含む計6自由度の振動を再現できる国内最先端のシミュレーター。住宅だけでなく、橋やトンネル、ダム、パイプライン、送電線などの耐震テストにも活用されている。

実験を指揮する趙氏は、記者に装置の説明をしながら無線機で指示を出した。「モード3-1、テスト準備」――コントロールルームではスタッフが待機し、ドローンが飛び立つ。「建物全体の変化を記録するためです」と孫氏が説明した。

「スタート!」

ブザーが鳴り、振動台の油圧シリンダーが作動。住宅模型はわずかに揺れ、揺れが収まると、研究スタッフが細部を確認し、亀裂のある箇所をマーキングしていく。

目視の確認に加え、加速度センサーや変位センサー、ひずみゲージ、光学式トラッキング技術、4台のハイスピードカメラを駆使し、建物の微細な変化を詳細に記録する。

ハイスピードカメラメーカー「中科視界」の祝良応氏によると、一般的な一眼レフのフレームレートは120fpsだが、このカメラは3000fpsで、1秒間に6GBの画像データを記録可能。建物のわずかな変化も見逃さない。

耐震テストが示す
科学と技術の進化

今回の耐震テストには、多分野の専門家が集い、それぞれの技術を発揮している。最先端の設備と成熟した研究が支える実験であり、科学研究レベルと工業生産能力の両方を検証するものだ。

例えば、ハイスピードカメラは、肉眼や通常のカメラでは捉えられない細かな変化を記録する。工業生産やロケット発射、車の衝突実験など幅広い分野で活用され、ロボットアームの動作解析や製造工程の改善にも貢献している。

ハイスピードカメラメーカー「中科視界」の雷秀軍副総経理によれば、次期製品のフレームレートは10万fpsに達し、世界トップレベルの性能を誇るという。さらに、使用されている望遠マイクロレンズには国産ブランド「LAOWA」が採用され、国産レンズメーカーの技術革新が進んでいることを示している。

振動台は「小巨人」企業である博科測試が提供。天津大学や北京建築大学などの大型振動台システムも手掛け、精密な耐震実験を支えている。同社は研究開発への投資を拡大し、2024年上半期には売上高の8.67%を研究開発費に充てた。

今回の耐震テストを請け負った工力所は、国内でも数少ない地震シミュレーション施設のひとつであり、年間100日以上稼働している。地震耐震テストだけでなく、船舶の防震システムの実験などにも応用されている。また、工力所が開発した新世代高速鉄道早期地震検知システムは、中国国内1500キロ以上をカバーし、インドネシアのジャカルタ・バンドン高速鉄道にも導入されている。

この実験の意義について、孫副教授は「高度な科学実験は、科学研究レベルと工業生産能力の双方を検証するものです」と語る。耐震テストを通じ、研究と産業が連携し、次世代の建築技術と防災対策が進化していくことが期待されている。

3Dプリンター住宅の可能性

河北省で行われた耐震実験では、3Dプリンター住宅模型に震度6~9相当の振動を加え、耐震性を検証。震度6では無損傷、震度7・8では亀裂が発生したものの構造に影響はなく、震度9でも倒壊を免れた。さらに1トンの重りを載せる追加試験でも、高い耐震性を確認。今後は損傷分析やさらなる耐震テストを通じ、設計改良を進める計画だ。

孫氏は3Dプリンター住宅を「トランスフォーマー」と表現する。デジタル設計、付加製造、プレハブ工法によって迅速かつ精密な建築が可能で、多様なデザインにも対応できる。さらに、鉄筋フレームが埋め込まれた鉄筋コンクリート構造により、耐震性・安全性・耐久性にも優れている。

「広大な農村地域では、レンガ造りの家が多く、建設労働力も不足しています。3Dプリンター住宅は大きな可能性を秘めています」と孫氏は語る。新たな建築技術としての信頼性を確立するにはさらなる研究が必要だが、今回の実験結果は、今後の技術発展に大きな自信をもたらすものとなった。