重慶市 オンデマンドバスの導入で進化する公共交通

重慶市では、スマホアプリで簡単に予約できる「オンデマンドバス」が登場し、注目を集めている。好きな時に呼び出せるこのバスは、タクシーのような手軽さと、バスならではの低料金(約40円)を両立。固定ルートを持たず、リアルタイムで最適ルートを走行するため、移動時間も短縮される。2024年初頭の運行開始以来、「バスを拾って出掛ける」という新しい移動スタイルが、市民の間で広がりを見せている。

呼べばすぐ来る
新しい通勤スタイル

朝のラッシュ時、沙坪壩区の陳東路は車で溢れている。

このエリアに住む秦さんは、身支度を整えるとスマホを取り出し、ワンタップでオンデマンドバスを予約した。自宅から乗車地点まで歩くこと3分。予約した3562路線バスはすでに待機していた。

「タクシーのように呼べばすぐ来て、早くて便利。通勤時間を10分以上短縮できます」と、秦さんはオンデマンドバスに乗車すると満足そうに話した。

オンデマンドバスが走行するのは特定のエリア内だが、ルートは固定されていない。市民はQRコードをスキャンし、スマホアプリで予約するだけで、バスは乗客の流れに応じてリアルタイムでルートを最適化し、最短時間で車両を手配する。エリア内でルートを自由に変えられるオンデマンドバスによって、移動がより効率的で便利になった。

「以前はバスを逃し、次の便を長時間待ちながら風雨や日差しに晒され、仕事に遅刻することもしばしばでした。今は違います。ネットで予約し、家を出るとすぐに乗れて、数分で目的地に到着します」と、秦さんは喜ぶ。

彼女は、オンデマンドバスを経験してから、バスを呼ぶことが習慣になり、親せきや友人にも勧めていると言う。

「ピンポーン、乗客のみなさま、こんにちは」――車内では音声案内が絶えず流れ、指定された乗車地点で次々と乗客が乗り込んでくる。

現在、重慶市で運行しているオンデマンドバスは4路線で、これまでに累計で50万人以上が利用し、総走行距離は60万㎞を超え、予約件数は69.61万件に達する。

爽やかな晴天の下、心地よい風の中、オンデマンドバスは走る。

「バスの運賃で、タクシー並みの快適さ」「乗り換えなしで目的地へ到着」「呼べばすぐに来るし、バスも便利になったものだ」……乗客たちは口々にオンデマンドバスを絶賛する。

 

住民の声が生んだ
進化するオンデマンドバス

向家崗エリアの3560路線、陳家橋エリアの3562路線、縦五路エリアの3236路線など、現在、重慶市では北碚区、沙坪壩区、ハイテク産業開発区に4本のオンデマンドバス路線が運行し、市民のニーズに応えている。

なぜこれらのエリアが選ばれたのだろうか。

「サービスはニーズに応じて生まれます。乗客の利便性を最大限に考慮しました」と、重慶交通開投公交集団北部分公司の曹栄暁運営部長は説明する。

これまで、これらのエリアは、地形が複雑で狭い道が多く、旅客流動量は分散していて需要が少ないなどの理由で、従来の固定ルートではカバーできておらず、住民は移動に困難を感じていた。

そこで、重慶市は市民の要望に応えて、定点、定時、定ルートという従来の運行形態を打破し、ルートを固定せず、最小限の車両とルートで公共交通空白地域を解消し、必要に応じて定点で送迎を行うオンデマンドバスを導入し、「人がバスを待つ」のではなく「バスが人を待つ」システムを生み出した。

「われわれは、市民が必要とすれば、どこまでもサービスを提供します」と、曹部長は話す。

さらに、オンデマンドバスの運行形態は常にアップデートされている。

例えば、ハイテク産業開発区を走行する3236路線では、当初はオンライン予約のみであったが、直接乗車も可能とした。サービスエリアも16㎢から8㎢に縮小し、それによって、レスポンス時間が短縮され、運行はより効率化された。運賃は3~5元から一律2元に統一され、カード決済や乗換割引も適用になり、高齢者や子どもも利用しやすくなった。

「路線開通後も、地域の学校と連携したり、ホットラインを設けたり、チラシを配布するなどして広く市民の意見を聞き、オンデマンドバスのサービスと効率の向上を図っています」と、重慶公交集団の関係者は語る。

AIが導く
工業団地へのスマート通勤

「こんにちは。携帯番号の下4桁が3579のお客様ですね?」

「はい、そうです」

「では、ご乗車ください。これからご予約の目的地へ向かいます」

これは、北碚区・向家崗エリアのLRT駅付近に停車していたオンデマンドバスでの一幕だ。

「ここは、LRT駅で下車した多くの通勤客が、オンデマンドバスに乗り換えて工業団地内の工場に向かうため、朝の時間は予約客で込み合います」と、3560路線の運転士の楊叡さんは話す。

向家崗エリアを運行する3560路線は、工業団地を中心に30以上の停留所があり、毎日、午前7時から夜9時まで、乗客の予約を受けて走行し、エリア内のLRT駅と大小の工場・企業を結んでいる。

一般の配車サービスと異なり、オンデマンドバスの乗客はややもすれば数十人にもなり、上下車地点も異なる。運行ルートはどのように決めているのだろうか。

ここで活躍するのが、オンデマンドバスが独自に開発した「AI配車アルゴリズム」だ。ビッグデータ分析とクラウドコンピューティング技術によって、乗客の位置、目的地の方向、周辺の車両リソースの分布、リアルタイムの道路状況、輸送力等の情報を総合し、最短時間で到着する車両を素早くマッチングする。

さらに、乗客の多様なニーズに応えるため、AIアルゴリズムによって最適な乗換ルートを算出し、迅速に運行ルートを調整して車両を配置し、運行スケジュールや便数を調整。需要と供給の情報をリアルタイムに共有し正確にマッチングすることで、運行効率を向上させている。

「運転手はルートを考える必要はありません。システムに任せておけばよいのです」と、楊叡さんは話す。「乗客から予約が入ると、車内のタブレット端末にプロンプトと乗客の位置が表示され、ナビに従うだけなので、気楽で手間取ることもありません」。

 

市民の暮らしに寄り添う
公共交通ネットワーク構築

オンデマンドバスは、重慶市が展開する多様な公共交通サービスの一つである。市内では「路地バス」や「市場直行バス」、「お花見バス」、「ボタン式バス」など、地域のニーズに応じた様々な交通サービスが導入されている。重慶市は、市民の声をもとにサービスを拡充し、暮らしに寄り添う公共交通ネットワークの構築を進めている。今後も地域の実情に合わせた新たなモデルを模索し、快適な移動環境を提供していく方針だ。