岩屋毅外相は12月25日、中国の王毅共産党政治局員兼外相と北京の釣魚台迎賓館で約3時間会談した。意思疎通を強化することで一致し、王氏が来年早期に訪日し「日中ハイレベル経済対話」を開催することで合意した。日本の外相の訪中は1年8カ月ぶり。岩屋氏が「課題と懸案を減らし、協力と連携を増やす第一歩にしたい」と呼びかけ、王氏も「共に中日関係を健全かつ安定的に前進させていきたい」と呼応した。「安全保障対話」も開くことになった。
懸案となっている日本産水産物の輸入再開について、岩屋氏が早期の再開を要請し、両氏は9月の日中合意の着実な履行を確認した。また、日本産牛肉の輸入再開や、精米の輸入拡大に向けた当局間協議を早期に再開することも決めた。日本にとって中国は最大の貿易投資国。日系企業の海外拠点数は中国が最も多い。国民の相互往来を増やし、消費喚起につなげる狙いがある。
岩屋氏は外相会談に先立ち李強首相とも会談した。李氏は中国語で好ましい変化を意味する「気象」という言葉を使い、2025年の日中関係がより発展するとの見通しを示した。
日中間の経済・人的交流を拡大する門戸開放措置も相互に打ち出した。岩屋外相は中国人の訪日ビザの大幅緩和措置を表明。中国人が個人旅行でビザの有効期間中に複数回来日して短期滞在できる「観光マルチビザ」は、有効期限が3年と5年の2種類あるが、10年間のビザを新設。富裕層への発給を念頭に、取得するための年収や保有資産の条件を高く設定した上で、富裕層が日本を訪れやすい環境を整えて消費喚起効果を見込む。団体旅行向けの観光ビザは、滞在可能な日数を15日から30日に倍増する。旅行会社が長い日程を組めるようになり、訪問先の選択肢が増える。交通の利便性が高い場所だけでなく、地方を訪れる機会の創出を期待する。65歳以上の中国人に限り、個人向けのビザで在職証明書の提出を不要にする措置もスタートする。3年間有効な個人向けの観光ビザは、取得後3カ月以内に入国しなければいけないというルールを撤廃する。それぞれの緩和措置は準備が整い次第、春ごろの開始をめざす。
中国政府は既に11月末、日本人が中国に入国する際の短期滞在ビザの免除措置を再開した。短期ビザ免除で滞在可能な日数は停止前の15日以内から30日以内に広げる。中国はコロナの感染拡大を封じ込める「ゼロコロナ政策」を23年1月に終え、ビザの免除対象国を広げてきた。欧州や東南アジアなどおよそ30カ国に免除してきたが、日本は対象外だった。
日本にとって中国との関係が安定することは、第二次トランプ政権発足で不確実性が増す国際社会のなかで重要となる。岩屋氏はトランプ氏の大統領1期目の間に防衛相を務めていた。当時、米国から日本の自主防衛の強化を再三求められた経緯から、中国と衝突しない関係を築いておく必要性について思い入れが強いという。日中新時代に向け新たな一歩を踏み出したと言えよう。
<評者プロフィール>
1971年時事通信社入社。ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。Record China社長・主筆を経て現在同社相談役・主筆、人民日報海外版日本月刊顧問。日中経済文化促進会会長。東京都日中友好協会特任顧問。著著に「中国危機―巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。
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