トロイア戦争の10年に及ぶ苦しみを、絶世の美女ヘレネーの一瞥が静めたという逸話がある。また、映画『風と共に去りぬ』で、戦火の中、メイドのマミーがスカーレットの腰をコルセットで締め上げるシーンは、一度見たら忘れられない。人類の美への追求は、太古の昔から途切れることがない。美は対立を和らげ、合意を生む力を持つ。そして、医学の進歩と文明の発展により「人生百年時代」を迎えた今、私たちはどのように安全で理性的、かつ健康的な美を追求すべきだろうか。
中国では、国家レベルから社会のあらゆる分野に至るまで、健康への関心と投資が高まりを見せている。この巨大な市場には多くの可能性が秘められており、中日両国が交流・協力を深める余地は大きい。先日、われわれは中国整形美容協会(以下「中整協」)日本オフィス代表の向姝氏に取材を行った。向氏は直前に「2024中国整形美容協会年次総会」と「第2回中国医美産業之都国際美容医学大会」に出席したばかりであった。
向姝氏は中整協日本オフィス代表として、卓越した専門知識と鋭い洞察力で、日中の美容医療分野における協力と交流を推進する重要な役割を担っている。
日本語学科で学んだ彼女は、2001年に来日後、日本の化粧品業界で商品企画、研究開発、プロモーションなど幅広い業務を経験し、知見を深めた。その後、創立30年を迎える美容医療機関「自由が丘クリニック」に転職し、既存ブランドの全面的リニューアルを主導。新シリーズ「ARES」の企画・開発に携わったほか、自由が丘クリニックと上海復星医薬集団との提携を実現した。さらに、自社ブランド「JC PROGRAM」を中国の小売市場へ展開するなど、数々の成果を上げている。
そして、業界でその頭角を現した向姝氏は、中整協の注目を集める存在となった。中整協は、国家衛生健康委員会の認可を受け、50の分会を擁する国家一級の民間社会団体である。設立から15年にわたり、業界の規範化、データベースおよびプラットフォームの構築、科学技術イノベーションの推進などに取り組み、中国美容整形業界の健全かつ持続可能な発展に寄与してきた。
向姝氏は2023年に中整協日本オフィスの代表に就任。日本オフィスの設立から1年半の間に、中日両国の業界精鋭による相互訪問や、日本の専門家を中国に招いた学術交流、日本国内における美容医療・再生医療プロジェクトの推進に尽力した。これにより、両国業界の規範化と協力強化のための基盤を築き上げている。
2024年初頭、向姝氏の主導により、中国の著名な美容医療機関の投資家や実務責任者、公立三甲医院の院長を団長とする「第一回日本美容医療・再生医療研修団」の訪日研修が実現した。この研修を成功させるために、向氏は1年をかけて日中間を十数回往復し、綿密な準備を進めてきた。
研修団は、日本の美容医療業界におけるきめ細かな管理体制や高度な技術を学び、理解を深めるとともに、両国間の交流をさらに促進する成果を上げた。
美しいものを見ると人は喜びを感じるが、美意識は経験や情感の蓄積によって形成されるものである。客観的で確かな価値観と成熟した美意識がなければ、美容整形は単なる視覚的快楽を盲目的に追求する危険性をはらむ。利用者の本来のニーズや個々の状況を軽視することは、患者に対する責任を負うべき美容整形業界の職業倫理に反する行為である。
向姝氏は、美容整形が視覚的な美を追求するにあたって、正しい価値観に基づいて行われるべきであり、盲目的に視覚的快楽を追い求めるべきではないと考えている。彼女は特に、日本の美容業界が肌の改善に重点を置き、きめ細やかなサービスモデルを提供している点を高く評価している。
日本の美容整形クリニックでは、目の施術だけでも30種類以上の方法があり、プライバシー保護やアフターケアも徹底されている。向姝氏は、中国人と日本人の肌の特性や美意識が類似していることを指摘し、両国が協力を強化することで、より利用者のニーズを満たすことが可能になると述べている。
中整協の一行も、研修を通じて中国人と日本人の肌質や骨格が似ており、人文的な基盤や美の認識においても共通点が多いことを実感した。そして、欧米の価値観に基づく技術や手法を追求するのではなく、日本の専門医が持つ技術や考え方を参考にすべきだとの認識を深め、この分野における中日間の交流と協力を一層強化する必要性を感じたという。
医学は計算の科学ではなく、経験の科学である。米国整形外科協会の統計によれば、日本の美容整形手術の件数は、アメリカ、キューバに次いで世界第3位に位置している。
日本では、美容整形に従事する臨床医は「美容医療専門医」と呼ばれる。その資格を得るには、専門医のいる医療機関で数年以上の臨床業務を経験し、シンポジウムでの講演や論文の発表、専門書の執筆などの要件を満たす必要がある。さらに、委員会の専門家による面接を受け、価値観や倫理観についての審査に合格することが求められる。
向姝氏によれば、日本国内の美容整形市場は近年着実に拡大している。最新の調査によると、コロナ禍の影響を受けながらも、市場規模は毎年約10%のペースで成長している。このトレンドは、美容整形へのニーズの多様化、市場競争の激化、そして業界の適正化を反映している。
向姝氏は、中国の利用者により良いサービスを提供するため、高い専門性を持つ美容医療従事者を中国に派遣するための「日本優良美容医療・再生医療機構認証制度」の設立を提唱している。現在、1958年設立の日本美容外科学会(JSAPS)との連携を進め、この構想の具体化に向けた取り組みを進行中である。
向姝氏によれば、現在の日本市場ではアメリカや韓国製の機器や材料が主流を占めており、日本の美容整形市場のサプライチェーン上流には大きな可能性が秘められているという。その背景には、日本の厳格な認可制度があり、これが日本の美容外科手術の安全性の高さを裏付けている。
向姝氏はこう語る。「日本で整形手術を受けられるのは金持ちや有名人だけという誤解を解きたいのです。美を追求し、美にアプローチし、美を享受することは、誰もが持つ平等な権利であるべきだと考えています」。
中整協日本オフィスの業務は、連絡・コミュニケーション、会議運営、調整・実施など多岐にわたるが、いずれもコストがかかっている。日本オフィスを強力に支えるのは、向姝氏がプロデュースした高級美容クリニックである。このクリニックは、皇居や国会議事堂を望む好立地に位置し、細胞培養加工室(CPC)を完備。PRP療法を実施できるため、再生医療を独立して完結できる施設となっている。
さらに、厚生労働省が認定した毛髪再生、糖尿病、男性機能障害、変形性関節症、慢性疼痛、顔面委縮症、脊椎損傷、脳血管障害など、多岐にわたる再生医療分野の資格を有し、先進的な治療を提供している。
日本は2012年に再生医療の研究と産業化を国家戦略として掲げ、2014年には『再生医療等の安全性の確保等に関する法律』を公布した。これは、自由診療を通じて再生医療技術を体系的に臨床へ応用する先駆的な取り組みであった。
この流れを受け、向姝氏がプロデュースしたクリニックは、技術的優位性を活かし、再生医療の研究、臨床応用、さらには事業化へと大きく舵を切ったのである。
向姝氏の名前の「姝」という字は、「美しい」という意味を持つ。その名の通り、彼女のキャリアそのものが美を体現していると言えるだろう。美を追求し、美を創り出し、美を提供する――これ以上、彼女にふさわしい仕事はないだろう。
若き中整協日本オフィス代表として、向姝氏は「他者の美を美とし、自他の美をともに美とする」道を探求し続けている。その初心を忘れることなく、彼女はさらなる美の創造へと歩みを進めている。
(撮影/司徒若辰)
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