訪日中国人旅行客が回復中 世界170万軒の宿に送客
流通総額25.6兆円を記録 Trip.com Group CEO ジェーン・スン氏に聞く

 ――トリップドットコムグループにおけるコロナ禍前、コロナ禍中、コロナ禍後の訪日中国人旅行客(日本への送客)の動向は。

 「2019年と比較して、20年は80%減、21年は95%減と大きく落ち込んだ。22年は同82%減、23年は同2%減と少しずつ回復。24年は大幅に増加し、19年実績を上回る見通しだ(注=23年8月9日まで日本行き団体旅行・パッケージツアー商品の販売禁止措置が継続されていた)」

 ――日本の温泉旅館の販売状況はどうか。

 「中国人市場については、19年と比較してまだ完全には回復していない。グローバル市場(中国人以外の世界の国々から)の予約については、急増中だ。23年実績は19年比で74%増となった」

 ――日本では6月のインバウンド客数が314万人と単月で過去最高を記録した。円安要因もあり、特に都市部のホテルでは宿泊単価が高騰している。トリップドットコムにおける日本の宿泊施設(旅館・ホテル)の平均単価はいくらくらいなのか。

 「具体的な数字は申し上げられないが、24年6月時点での平均単価は、昨年に比べて9・7%増加している」

 ――23年の業績はどうだったか。

 「トリップドットコムグループは昨年、世界的に大躍進した。グローバルで前年比100%増の成長を記録した。GMV(流通取引総額)は1600億米ドル(日本円で約25・6兆円)を記録。アウトバウンド(海外旅行)でのホテルと航空の予約・収益も前年比300%増となった。24年第1四半期(1~3月)も好調なスタートとなり、収益は前年同期比で80%以上拡大している。アジア太平洋地域での成長は前年同期比80%増で、欧州では900%増だった」

 ――契約宿泊施設数は世界にどれくらいあるのか。

 「世界170万軒以上の宿泊施設と契約がある。また220以上の国と地域を3400空港で結ぶ600社以上の航空会社の航空便も予約できる。現在のユーザー数は4億人以上で、24言語、35通貨に対応している」

 ――カスタマーサービス(CS)は追いついているのか。

 「ユーザーからの質問には基本的にAIが対応。直接対話が必要な場合は30秒以内にCSスタッフが電話応対する。旅行中のトラブルなどSOSに対してはCSスタッフが電話で即時対応している」

 ――5月末に上海で開いたグローバルパートナーカンファレンスでは、アジア人だけでなく欧米人の参加者も目立った。

 「日本をはじめ、50を超える国と地域から1600人以上のパートナー(取引先)にご出席いただいた。日本からも約100人にお越しいただいた。英国、イタリアなど欧州の鉄道の予約が伸びており、その関係者にもご登壇いただいた。列車予約は、今年2月の春節では前年同期比140%増を記録。また今年の第1四半期の欧州における1日あたり列車チケット販売額は前年同期比500%増を記録した。特に英国では600%増となった。列車旅行をさらに推奨、推進することで、カーボンニュートラルにも貢献していきたい」

 ――ESG(環境・社会・ガバナンス)への積極的な取り組みを事業目標に盛り込んでいると聞いている。

 「エコな旅の促進、家族にやさしい政策の支援、地域の活性化などのESG活動を行っている。いずれにおいても顧客やパートナー(取引先各社)、そして地域社会が相互にメリットを享受できるように配慮している」

 「エコな旅の促進では、『LESS PROJECT』と称して、ローカーボンホテル、ローカーボンフライト、ローカーボンレンタカー、ローカーボンビジネストラベルを推奨している。ローカーボンの基準を満たしたホテルの予約は昨年166%増となった。トリップドットコムグループとしては、カーボンエミッション(二酸化炭素排出量)の削減目標として2030年までに50%減を掲げている」

 ――家族にやさしい政策の支援とは。

 「トリップドットコムグループでは、昨年7月にグローバルな従業員に向けた育児補助金制度を導入した。この制度は、従業員の家族を支援し、働く家族をサポートするために、3年以上勤務している全従業員に対し、子供が生まれた家族、新生児1人ごとに年額20万円の現金ボーナスを提供するというものだ。子供の1歳の誕生日から5歳までの期間に適用される。現時点で、トリップドットコムグループの世界中のオフィスで541人の従業員がこれから支援を受ける予定だ。育児補助金は現金ボーナスとして支給し、自由に使えるように使途に制限はかけていない」

【聞き手・江口英一】

トリップドットコムグループのジェーン・スンCEO

 

【記事提供:観光経済新聞