昨年2023年の春に『ある種の帰郷』をテーマに開催された個展に続き、ドイツ現代美術家ラインハルト・ポッズの個展が、今年もニューヨークのファーガス・マッカフリーギャラリー(Fergus McCaffrey Gallery)で開催されている。
ラインハルト・ポッズは1971年から1977年までベルリンの名高い美術アカデミー(Faled Academy of fine Arts in Berlin)で学んだ後、DAAD奨学金を獲得し、1977年から1978年にかけてニューヨークで過ごした。米国滞在中、彼はニューヨークの荒々しい街が醸し出す多様なカルチャーを受け入れ、心身ともにニューヨーカーとして、若い感性を無防備にさらけ出した。リトルイタリアのエリザベス通りにあるロフトに住み、絵を描き、ギャラリーを巡り、伝説のライブハウスCBGBやマックス・カンザスシティでラモーンズ、ブロンディ、トーキング・ヘッズのライブを楽しんでいた。1978年にドイツに帰国し、ノイケルンとクロイツベルクの境界線近くにある都市に拠点を移した。そこは、ノイエ・ドイチュ・ヴェレ(新ドイツの波)がSO36というミュージッククラブとパフォーマンススペース周辺に集まり、さらに、ポッズが志を同じくするアーティスト仲間と共同で設立した「ギャラリー・アム・モーリッツプラッツ」や「ギャラリー1/61」といったオルタナティブスペースも存在した。
画歴約60年に及ぶポッズは、表現主義的手法を基盤に、不定形で未熟練かつ自由奔放でアンリミテッドな独自の描き方を貫いている。1970年代後半から80年代前半にかけて、クロイツベルクやソーホーのグラフィティで覆われたUバーンや地下鉄の車両を彷彿とさせるポッズの絵画は、草創期のエネルギーと都市化(アーバン)の要素を取り入れた比喩的及び象徴的な形態を表現している。彼は独自の作品スタイルを洗練させ進化させる過程で、グラフィックや表現主義的な技法を融合し、チューブから直接絵の具を絞り出し、それを垂らしたり、削ったりすることで、驚くほど新鮮でエネルギッシュな作品群を生み出してきた。
その功績の証として、彼はヴィラ・ロマーナ賞(1980年)、ヴィラ・マッシモ賞(1988年)、ウィル・グローマン賞(1994年)、ベルリンのベルリニッシェ・ギャラリーのフレッド・テイラー賞(1996年)など、数多くの奨学金や賞を受賞している。
ラインハルト・ポッズは、1970年代半ばからヨーロッパで頻繁に展覧会を開催してきたが、1990年代半ばには一度表舞台から姿を消した。
しかし、最近になって再び表舞台に復帰し、2018年と2022年にベルリンのギャラリー・ミヒャエル・ハースやチューリッヒで展示会を開催し、高い評価を受けた。
現在はベルリンのヴァンゼーに住み、活動を続けており、2023年春に続いて、2024年9月にも個展を開催している。
ちょうどニューヨークにいた私は、そのオープニングにも参加することができた。個人的な感想では、昨年の作品と比べて新作の絵画は色がさらに淡くなり、子供が描いたような自由さが加わったように感じる。
職業として画家であるというよりも、積極的でも消極的でもないポッズの抽象絵画は、どの流派にも分類できない、彼しか描けない独自の表現だ。描くために絶対に描くわけではなく、描くという行為を楽しめないときには描かなくても構わないという自在なマインドが彼の絵画表現に現れているような気がする。
心の奥底に潜んでいる柔らかく細い線が揺れ動いた瞬間、ポッズの筆致は、果敢かつ迷いなく、時に稚拙ともいうべき動きで踊り出す。誰が見ていようと、どう思われようと、一向に構わない。ただ、自分の内なるサウンドに忠実に耳を傾ける本能的な自己愛が垣間見える。そのため、画面は純粋で心地良い。
その自在さゆえ、彼が再び表舞台に戻った出来事は、まるで自然な流れのようで、非常に興味深い。「去来自由」とでも言うべきだ。
1984年の作品「O.T Chavari」に見られるグリーンと赤の色彩は、2023年の作品と比べても変化を感じさせる。
東京の青山にもギャラリーを構え、リチャード・セラーやキーファーも扱っているファーガス氏の先見の明は確かだ。来月まで続くこの個展に何度も足を運ぶことになりそうな予感がする。
アート・シーンに帰還した「自由な勇士」とも言うべきポッズ。その作品には、70年代のポストパンクやニューウェイブの音楽の影響が垣間見え、ベルリンとニューヨークという戦後の最先端都市で経験したコンセプチュアル・アート(概念芸術)やミニマリズムの影響が反映されている。若き日のポッズが持っていた変わらぬパンクスピリッツは、抽象表現の中に自由な名残を残している。それは、ロックンロールの激しさの余韻のように、眠らない不夜城で蘇り、再び息を吹き返したようにも感じられる。まさにパンクは永遠だと言わんばかりに。
洪欣
東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。
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