文化・文物が語る
「刺繍タンカ芸術展」が角川武蔵野ミュージアムで開幕

2024年9月30日午後、「刺繍タンカ芸術展――中国無形文化遺産の美」のオープニングセレモニーが、角川武蔵野ミュージアムで開催され、中日両国の政治、文化、歴史、芸術、報道など各界から約100名の来賓が参列した。

「刺繍タンカ芸術展――中国無形文化遺産の美」は、国文煊(北京)文化発展有限公司と日中文化展覧協会が主催、東方瑰宝(北京)芸術品有限公司、東方瑰宝(深圳)芸術館、深圳市洲明科技股份有限公司、北京鑑鐘文化伝播有限公司が共催、中国駐日本大使館文化処、中国文物交流中心、日中文化交流協会が後援、NHKエンタープライズが映像制作を担当し、角川メディアハウスが協力、黄山美術社が企画・運営を担当した。

「刺繍タンカ芸術展――中国無形文化遺産の美」は「タンカの歴史と文化」「刺繍タンカの制作過程」「刺繍タンカの美学と文化的価値」「中日の仏教とタンカ芸術の交流」の4つのセクションから構成されており、著名な刺繍タンカ及び仏像のコレクターである李巍氏が収集した100点の刺繍タンカの名作と仏像が出展されている。李巍氏は半世紀以上にわたって、刺繍タンカと仏像の収集・保護に取り組み、そのコレクションは、量、質ともに驚嘆に値する。李巍氏のコレクションを基に、中華書局、故宮博物院、中国国家博物館、中国文物出版社の協力を得て出版された写真集シリーズは、業界で高い評価を受けている。李巍氏はこれまでに、800点近くに及ぶ仏像、タンカ等のコレクションを博物館等に寄贈し、文化財の保護と文明の伝承に尽力してきた。

「刺繍タンカ芸術展」は、中日両国の各界の注目を集め、高い評価を得ている。日中文化展覧協会名誉会長で元文化庁長官の青柳正規氏が、日本側の主催者を代表してビデオメッセージを送り、タンカは信徒からも尊ばれた貴重な芸術品であり、本展は、タンカの技巧をじっくりと鑑賞できる貴重な機会である。数百年前の巧みな技工や貴重な資料を、是非ご堪能いただきたいと祝福した。

中国文物交流中心元副主任の周明氏が、オープニングセレモニーに出席し挨拶した。タンカは中華民族にとって非常に貴重な歴史文化遺産であり、この度出展された86点の刺繍タンカは、チベットの優れた文化をはっきりとした姿・形で表し、中華民族の民間芸術における貴重な無形文化遺産を生き生きと表現している。『刺繍タンカ芸術展』は、タンカの保護・普及の窓となり、中日友好人士の皆さまに真の文化体験をもたらすものだと語った。

鳩山由紀夫元首相がビデオメッセージを寄せ、本展は中日文化交流に新たな橋を架け、タンカ芸術の伝承・発展に新たな道を拓き、芸術を愛する人びとに豊かな知覚体験を提供するものだと称賛し、展覧会の成功と中日文化交流の更なる伸展を願い、パンフレットに祝福のメッセージを記した。

元中国文化部副部長で故宮博物院院長の鄭欣淼氏が北京からビデオメッセージを寄せ祝福した。本展は、刺繍タンカの歴史、技工、美学的、歴史文化的価値、さらには中日の仏教及びタンカ芸術の交流を紹介するものであり、半世紀にわたって文物の保護、収集、研究、整理に尽力し、博物館への寄贈を続けてきた李巍氏に賛辞を贈った。また、本展は中日文化交流に資するものであり、李巍氏と氏のコレクションが、多くの国々で紹介されることを希望した。

元財務副大臣の秋野公造氏が挨拶し、「文化」は相互理解と信頼を深めるための重要な紐帯であると述べた。秋野氏は中国で生まれた母親から「中国は広大で豊かな国で、中国人はとても友好的だ」と教わり、自身もこれまでの経験から、そう実感していると語った。また、日本では多くの家庭で仏教画が飾られていることを紹介し、タンカ芸術に触れることで、より関心が高まり、多くの恩恵をもたらすだろうと述べ、展覧会の開催に感謝の意を表し、李巍氏に敬意を表した。

東京中国文化センターの羅玉泉主任が挨拶し、チベット高原は日本人に人気の観光地のひとつであり、空海によって日本に伝えられた密教は日本に深い影響を与え、仏教に代表される文化交流は常に中日交流の重要な要素であった。日本でこのような大規模なタンカ展が開催されることは極めて稀であると語り、展覧会の開催に尽力した両国のチームと李巍氏に感謝の意を表し、本展は、中日両国の人びとの文化・精神両面の理解を増進するものになるであろうと期待を寄せた。

故宮博物院前副院長の陳麗華氏は、タンカは2006年に中国初の無形文化遺産として登録され、この度出展された李巍氏のコレクションは、中国タンカの工芸美と芸術美を完璧に表現しており、極めて高い美的価値と芸術的価値を有していると述べ、本覧を通して、中日両国の人びとがこの素晴らしい文化遺産をより深く理解し、両国の民間の文化交流と友好交流を一層深化させ、共に人類の文化遺産の伝承と発揚に努めていきたいと語った。

北京大学経済学院の汪婉教授は、中日の文化機関の協力の下に展覧会が開催されたことに敬意を表し、李巍氏が民間に散在する仏教文化の芸術品を単独で収集し、中国の伝統文化の継承・発展に大きく貢献してきたことを高く評価した。また、本展を通して、日本の人びとは中国の伝統文化の魅力と中国文化の多様性に触れることができ、日本社会がチベット及び漢文化とチベット文化の融合についての理解を深める契機になると語った。

李巍氏が主催者のひとつである東方瑰宝(北京)芸術品有限公司を代表して挨拶し、次のように述べた。「明と清の時代、宮廷造弁処が、タンカの絵画を基に織物や刺繍の技工を用いた二次創作を命じ、錦織、刺繍、堆繍、つづれ錦、緙毛などの異なる技法によって独自の特徴をもつ、比類のない中国の刺繍タンカ芸術が形成されました。技工が複雑で、優れた刺繍技術で精巧に制作されたこれらのタンカは、国宝と呼ぶにふさわしいものです。海外初となるタンカの展覧会は、中日文化交流のひとつの成果であり、アジア諸国の文化の融合と寛容性を物語っています。展覧会の準備から展示品の配置に至るまで、すべての過程が苦労の連続でしたが、中日双方があらゆる分野で協力し合い、素晴らしい展覧会を創り上げることができました。『コレクションを公開展示し、文化財を文化として伝承する』との理念を堅持し、中日両国の文芸分野における交流・協力を促進してまいります」。

周明氏、秋野公造氏、羅玉泉氏、陳麗華氏、汪婉氏、李巍氏、日中文化交流協会の中野暁専務理事、西陣経済研究所の尾田美和子代表理事、日中協会の瀬野清水理事長、中国国家文物局政策法規司前司長の彭常新氏ら来賓がテープカットを行った。

李巍氏は、中国文物出版社出版のデラックス版『錦繍大千』を、東京藝術大学図書館、早稻田大学図書館、順天堂大学図書館、京都大学図書館等の10の文化機関に寄贈している。

オープニングセレモニーを終えると、来賓は展示室に移動し展示を子細に鑑賞した。タンカは唐喀とも唐嘎とも呼ばれ、彩色した緞子で表装し、掛け軸にして祀る巻物で、7世紀の吐蕃王朝に起源をもつ。タンカは主に仏画や宗教の故事をテーマとし、歴史文化、チベット医学、世情・習慣などを内包し、豊かな民族性と強い地域性を帯び、「チベット高原の百科事典」とも称される。

タンカは素材や制作技法の違いにより、「国唐(シルク)」と「止唐(彩色画)」の2つに分類される。今回出展されている明・清時代の刺繍タンカは「国唐」の集大成であり、素材に絹織物、宝石、金銀糸を使用し、刺繍、錦織、堆繍、象嵌などの高度な技工が施され、精緻を極めている。さらには、チベット仏教様式と宮廷織物の技工が融合した独自のカテゴリーであり、民族融合の姿を物語っている。その精緻な技工と保存状態の良さに驚嘆の声が止むことはなかった。

引き続き、美術、考古学、コレクション等、各界のゲストによる座談会が行われた。ドキュメンタリー『天空チベットタンカ絵師の郷』の監督を務めた井上隆史氏と平山郁夫シルクロード美術館館長がそれぞれ、タンカ芸術に対する見解を述べた。日中文化展覧協会の唐启山常務副会長は、文化交流は中日関係がいかなる状況にあっても、友好促進、相互理解のための重要な役割を果たしていると述べた。座談会は和やかな雰囲気のうちに終了した。

本展の企画・運営を担当した黄山美術社は、長年、日中の文物を中心とする美術展の企画・運営に携ってきた。この20数年間で「大三国志展」、「故宮博物院展」、「漢字三千年展」、「西方絵画500年―東京富士美術館蔵作品展」、「アフガ二スタン国家博物館珍宝展」「平山郁夫シルクロード美術館所蔵品展」などの大規模展覧会を成功させてきた。

陳建中社長は取材に応じ、中国文物交流中心、NHK制作センター、KADOKAWAグループ等関連機関のご支援、さらには李巍先生の献身的なご尽力に感謝したいと述べた。本展には、中華文明を伝え広めたいとの情熱と親交を深めお互いから学びたいとの思いが体現されている。

角川武藏野ミュージアムは、隈研吾氏が設計し、松岡正剛氏が主管した、図書館、美術館、博物館が融合した文化複合施設である。『刺繍タンカ芸術展――中国無形文化遺産の美』は、角川武蔵野ミュージアム初の中国人による展覧会であり、中国人個人コレクターの海外出展の先駆けともなった。会期は2024年10月2日~10月9日。角川武藏野ミュージアムにぜひ足を運んでいただきたい。(撮影:蔡暉)