生命の歌と色彩のシンフォニー
中国油絵画家 都天貴が描く、世界自然遺産「神農架」

自然と人文が織りなす壮大な絵巻。中国・神農架は、ユネスコが指定する「世界自然遺産」である。神農架の深い原生林の森、豊かな野生の動植物、神秘的な伝説は、数多の探検家や芸術家を惹きつけてきた。この歴史豊かで生気に満ちた神農架の地に、生命を賭けて自然の美に迫り、絵筆で山河と対話するひとりの油絵画家がいる——―都天貴である。氏の作品に触れると、その美しさに目を奪われ、魂を揺さぶられる。すべての作品が大自然の偽りのない愛情さながらに、色彩と光が生命の鼓動と自然の雄大さを表現している。

中国の神農架を
世界の神農架に

都天貴氏と初めてお会いしたのは、2019年12月12日、東京中国文化センターで開催された神農架に関する絵画展であった。氏の作品が、まるで磁石のように、瞬時に来場者の目を惹きつけていたことを今も鮮明に覚えている。2024年9月、氏はご子息の都楽氏を伴い、再び東京中国文化センター主催の『世界自然遺産:中国・神農架 都天貴、都楽美術作品展』を訪れた。そこで、都天貴氏を本誌編集部にお招きし、再び語らいの機会を得た。

この度の語らいで最も印象に残ったのは、氏の次のような言葉だ。「神農架は、私の芸術的生命の揺籃です。この秘境に足を踏み入れるたび、自然の精霊が私に呼びかけてくるのです。その、言葉では言い表すことのできない力に駆り立てられて、私は絵筆を走らせ、一瞬の美を捉えるのです」。

 

さらに、都氏の次の言葉に心を揺さぶられた。「私はある種の使命感に駆られています。それは中国の神農架を世界の神農架にし、世界の人びとを神農架に呼び寄せることです」。

 

生命の色彩、自然の賛歌

記者には芸術的才能はなく、絵画に関する知識もほとんどないため、批評などできようはずもないが、都天貴氏の作品からは、生命に対する賛歌がストレートに伝わってくる。画集『春華秋実』に収められた作品を観てみると、神農架のワンカットワンカット、一枚一枚の葉、一滴一滴の露に生命の力が満ちている。氏の作品は豊かな色彩のグラデーションを駆使し、刻々と変化する自然を余すところなく表現している。神農架の基調は緑であるが、都天貴氏の描く緑は単調ではなく、萌黄色から深緑へ、オリーブグリーンからダークグリーンへと幾重にも重なり、すべての作品が生気に満ちている。都氏は言う。「緑は生命の色です。異なる緑によって、四季折々に変化する神農架の生命力を表現し、観る人に時の流れと生命の律動を伝えたいのです」。

私は氏の作品の中でも特に『神農架原始森林』が好きである。壮大な構図と繊細な筆致によって、神農架の原生林の森の神秘、荒々しさ、生命力が表現されている。特に、重なり合うようにして土壌深く張り巡らされた根は、樹木に栄養を運び樹木を支えているだけでなく、それらが樹木の生命の源泉であり、神農架の原生林の生命力と生生流転の力であることを感じさせる。

 

瞬間を永遠たらしめる

光と影の魔術師

 

光と影は都天貴氏の作品の魂である。氏は光と影こそが絵に深みと情感をもたらす自然界の最も魅力的な言語であることを深く知る。『天燕金秋』は、神農架特有の雲海を題材とした作品であるが、繊細な光と影によって、雲霧に包まれた山河が美しく描かれている。雲霧が滝のように降り注ぎ、雲を突き抜けた陽光は光の束となって渓谷を照らし、作品全体が神秘的かつ荘厳な空気に包まれている。「私はキャンバスの上で、光と影のダンスを表現したいと思っています。それが人びとの視線を集め、内なる共鳴を呼び、観る人を魂の旅に誘うのです」と語った。

 

細部に光る独創性と匠の心

常日頃から現地に足を運び、スケッチにいそしんできた都氏は、天地を見透し、すべてを描く能力と技術を身につけた。都氏はこれまでに、神農架林区に生息するさまざまな稀少保護動物を描いてきたが、中でも、「高山の精霊」と呼ばれる神農架のキンシコウを最も多く描いてきた。氏の描くキンシコウは、利口そうで、愛らしく、表情豊かで真に迫っており、精緻に描かれた毛が特徴的である。それは審美的価値と人文的価値を併せ持ち、都氏は「キンシコウの父」「中国・キンシコウ油絵の第一人者」とも称される。

 

芸術と自然との対話

都天貴氏は、絵を描くことで自然と対話しているのだと話す。「私は神農架の山頂に立ったり、森の小道を歩いたりするたびに、人と自然の強い繋がりを感じるのです。それは、人と自然との最も純粋なコミュニケーションです。絵筆によって、私は神農架の大自然と繋がっています。私の作品を通して、多くの人びとに神農架の魅力、自然の静寂と力を感じてもらいたいと願っています」。

都氏の作品を見ていると、自然と対話していることを強く感じる。『九湖盛境』では、湖面が鏡のように周囲の山々や木々を映し、空と水面が織り成す完璧なシンメトリーによって、全体が静けさに包まれている。この作品は、神農架の自然の美しさを再現しているだけでなく、都氏の内面世界を投影しており、調和と共生に対する憧れが表れている。

 

継承と革新
芸術の道を探求

 

画家として芸術の道を探求する都天貴氏は、継承と革新の重要性を知悉する。氏は少年時代に兄の影響で絵筆を手にし、子息の都楽氏には2歳の頃から絵を教えてきたのだという。氏は、伝統的な中国絵画の精髄を学ぶとともに、西洋の油絵の技法を吸収し、独自のスタイルを生み出そうとしている。氏の作品には中国の伝統的な山水画の意境が感じられる一方で、西洋の油絵の光と影の効果が活かされている。両者が巧みに融合し、東洋の趣を帯びつつも現代的感覚を失っていない。

記者は氏の作品の中でも特に『神農紅樺』が好きである。この作品は、そうしたスタイルを完璧に体現している。そこに描かれた、枝葉を生い茂らせ、まっすぐに力強く伸びた古木は、千年の物語を語っているかのようである。子細に見てみると、作品全体は重厚でありながら、自由奔放さを失っていない。繊細な光と影が立体感と奥行きをもたらし、東洋と西洋の芸術が融合した独自の魅力がある。

最後に一文を書き添えておきたい。全身全霊で神農架の美に迫る画家・都天貴は、絵筆によって自然の奥深さを人びとに知らしめた。氏の作品は単なる視覚芸術ではなく、魂に訴えてくるものがある。人びとは美を鑑賞するだけでなく、そこから生命の偉大さと自然の神秘を感じるのである。都氏自身もこう語っている。「私の絵は、私自身の世界観であり、生命に対する賛歌です。私の作品を通して、人びとの自然を愛し大切にする気持ちを喚起できればと願っています」。

今後の展望について尋ねたところ、明年はオーストラリアで作品展を開催の予定で、台湾での開催も計画しているとのことであった。国内外で、都天貴氏の芸術に触れ、未開の神農架の魅力と氏が心血を注いだ名画を味わうことができるのである。