NVIDIA(エヌビディア)は主にGPU(グラフィックボード)を開発・販売する大手半導体メーカーである。GPUはパソコンの画面表示を担う重要な部品で、ゲームプレイ、ビットコインのマイニング、生成AIのサービス化に不可欠な存在である。生成AIブームによりGPUの需要が急増し、エヌビディアの2024年度の売上高は前年比約2.3倍の過去最高となり609億ドル(約9兆6856億円)を記録した。2023年の株価(NVDA)は約3.4倍に急騰し、大きな話題となった(図1)。このような急成長を受けて、生成AIの発展に支えられたエヌビディアには、一部投資家の間でバブルの懸念も浮上している。
1.米国景気懸念
これまで米国経済は、インフレが落ち着く中で緩やかな減速にとどまり、ソフトランディング(軟着陸)するとの見方が一般的であった。しかし、7月以降、状況が変わり始めた。7月の失業率は4カ月連続で上昇し、景気後退のシグナルである「サーム・ルール」が点灯したことで、市場では景気後退への懸念が急速に高まっている。コアCPIも3カ月前年比率で+1.8%となり、40カ月ぶりに+2%を下回り、インフレの減速が鮮明となっている。FRB高官からは9月の利下げに前向きな発言が聞かれる中、市場の関心は利下げの幅とその後のペースに移行している。同時期にエヌビディアの株価のボラティリティも増加している(図2)。
2.独占禁止法違反の疑い
米司法省がエヌビディアに対し独占禁止法(反トラスト法)の調査を本格化させたと、8月3日にBloombergが報じた。これまで質問状の送付にとどまっていたが、今回は法的拘束力のある文書提出命令が発出された。エヌビディアが他のサプライヤーへの切り替えを困難にし、AI半導体の買い手に不利な条件を課している可能性が懸念されている。この調査の影響で、エヌビディアの株価は急落し、時価総額は約2,790億ドル(約43兆8541億円)減少した。
3.業績の減速
エヌビディアが発表した8-10月期の見通しでは、総収入が325億ドル(約5兆1554億円)となり、市場予想の317.69億ドル(約4兆5300億円)を上回っている。しかし、前年同期比では79.4%の増加にとどまり、5-7月期まで5四半期連続で続いた2倍超の成長ペースが鈍化する見通しである。また、前期比の伸び率は8.2%にとどまり、7四半期ぶりの一桁成長となっている(図3)。
アナリストの平均目標株価は148.85ドル(約2万1111円)であり、現在の株価108ドル(約1万5317円)に対して潜在的なリターンは38%とされる。しかし、上述の三つのリスクを考慮すると、今後の株価は大きな変動する可能性があり、投資リスクも高まると予想される。いつ暴落が起こるかは不透明なため、投資には慎重な判断が求められる。
張 益偉 Choko Zhang
上智大学卒業し、金融工学専攻。特許金融分析師(CFA)と金融リスクマネージャー(FRM)の資格を保有しています。卒業後、方正証券の半導体セクターアナリストとして2年間の経験を積み、現在はFinlogixでストラテジストアナリストとして勤務しています。
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