本年7月、日本国際貿易促進協会は2024年(第47回)訪中代表団を派遣した。同協会会長代行であり、今回の団長代行を務めた橋本岳衆議院議員は、第82・83代内閣総理大臣を務めた橋本龍太郎氏の次男であり、これまで厚生労働大臣政務官、同副大臣等を歴任している。橋本氏は三菱総合研究所時代から訪中経験があり、中国との関係は長い。先日、衆議院議員会館で橋本岳氏に取材を行い、今回の訪中の意義と成果、日本と中国との経済協力関係、そして2025年に開催予定の大阪・関西万博への期待について伺った。
―― 日本国際貿易促進協会創立70周年の本年、47回目の訪中を実施されました。今回の訪中の意義と成果について教えてください。
橋本 日本国際貿易促進協会の使命は、日本と中国の間の貿易を促進することにあります。毎年の訪中団は、継続的なコミュニケーションを通じて相互理解を深め、民間の貿易促進につなげていくことが重要な役割であると考えています。
今年で設立70周年を迎える当協会は、河野洋平元衆議院議長が会長を務めており、今年度から私が会長代行を務めることになりました。以前は橋本龍太郎が会長を務めていました。それ以外の役員は民間企業の方々で構成されています。
今回の訪中では、何立峰国務院副総理や凌激商務部副部長、そして信長星江蘇省党委員会書記との面談を通じて、一層の経済協力の推進が確認されました。さらに地方都市との協力や、両国の共通課題である少子高齢化に伴う医療・介護分野での協力についても意見交換を行いました。
何立峰副総理からは、1952年設立の中国国際貿易促進委員会と1954年に設立された当協会との長年にわたる交流が、両国の経済・貿易関係に大きく貢献してきたことが強調されました。
そして、中国経済の今後の成長見通しについて語り、日系企業に対して中国でのビジネスチャンスを掴むよう促しました。さらに、最新技術の導入をためらうべきではないと述べました。
凌激商務部副部長からは、日本企業に対する重要なメッセージとして、「中国政府は外資誘致に関する政策を重視している」との発言があり、今後も改革開放を堅持する旨が示されました。
そして、三中全会のテーマである改革の深化について、中国式現代化、すなわち貧富の格差を伴わない現代化を進め、すべての国民が共同富裕に達することを目指す方針を紹介されました。
それから、外資系企業の不平等な対応についての苦情や意見があることも認識されており、今後も問題があれば随時対応するとのお話もいただき、互いの考えを知る良い機会となりました。
日本企業が中国市場への投資を進めることが双方にとってウィンウィンになるという認識が共有されたことは、今回の訪中の大きな成果であると感じています。
また、別の観点から言えば、コロナ禍で日中両国の政治家の交流が薄れていた中で、今回、私が今年最初に訪中した与党の議員でもあり、経済団体としての訪中ではありましたが、政治間レベルでの交流を再開する一つのきっかけになれたのではないかと思います。
―― 訪中前の6月に蘇州で、不幸で残念な事件が起こりました。
橋本 6月に蘇州で発生した日本人襲撃事件に関連して、偶然にもその直後に蘇州を訪れることになったわけですが、現地で蘇州市の劉小濤党書記から事件に対する対応や、被害者への支援について詳細な説明を受けました。
江蘇省には1万人の在留邦人が滞在しており、深い関係があることにも触れ、蘇州の事件に関して亡くなった方に対して哀悼の意を表しました。その上で、江蘇省で生活する日本人の安全確保を一層強化するよう求め、今後このような事件が再び起こらないよう、事件の真相がわかり次第お知らせいただきたいと要望しました。こうして現地の状況を直接確認できたことも、意義深い成果であったと思います。
この事件が日本で報道されたことで、日本企業が中国、特に江蘇省への投資を検討する際に日本本社が躊躇する事態が生じています。この問題の背景には、コロナ禍により人の往来が制約され、日本本社のスタッフが中国に渡航しにくくなっていることが大きく影響しています。
コロナ以前はビザが不要で気楽に中国を訪れることができましたが、コロナ以降はビザが必要となり、渡航に手間がかかるようになりました。この状況を打開し、人の往来を再び活発化させるためにも、コロナ前の状態に戻していただくよう求めました。劉書記からは、関係部門に報告するとの返答をいただきました。
―― 今回の訪中で特に感じた中国経済の進展と、日本と中国の経済協力関係について、どのようにお考えですか。
橋本 中国経済は現在、長期的に見て、高度成長期から中速度成長期にさしかかり、成熟期に入りつつあるように感じます。これまでの「世界の工場」から「世界の市場」へ、そして内需拡大や生活水準の向上を目指す方向へとシフトしています。
GDPの伸びは依然として右肩上がりですが、その上昇幅は少しずつスローダウンしています。しかし、これは中国国内において生活が豊かになり、より高い収入を目指す姿勢が見られるというポジティブな変化として捉えることができます。
今回の訪中で特に印象に残ったのは、自動運転車の技術の進歩です。自動運転車とは人間が運転操作を行わなくても自動で走行できる車両のことで、AI(人工知能)、センサー、カメラ、GPSなどを駆使して、ドライバーの操作なしで自律的に走行する技術です。中国は、米国とともに世界で最も自動運転技術が進んでいる国と言えます。
公道を走る無人タクシーなど、技術の実用化が進んでいる現状を目の当たりにし、大変驚きました。もちろん課題は残っているものの、これらの問題は今後解決されていくと思います。
日本がこうした技術の進展にどう向き合うかは、スタンス次第だと思いますが、現実をしっかりと見据え、対応することが重要だと感じました。中国に対しては、偏見や予断を持たず、虚心坦懐にものを見て判断することが必要です。
何事も“百聞は一見に如かず”です。日中の経済関係においても、摩擦や意見の違いがあっても、お互いにコミュニケーションを続け、共存していくことが大切だと思います。実際に現地を訪れ、現状を自分の目で確認することの意義を改めて感じました。未来を見据えた日中の協力は、日本にとっても大変重要だと思います。
―― 2025年4月に大阪・関西万博が開催されます。本年2月の中国パビリオンの起工式で、呉江浩駐日中国大使は、「今回の万博が中日文化交流を促進し、民間が相互理解を深める重要な機会となることを願っている」と述べました。55年ぶりに日本で開催される大阪・関西万博に、どのような期待を寄せていますか。
橋本 現在は工事現場しか見えていませんが、万博の開催が近づくにつれて、各国のパビリオンがそれぞれ独自のテーマや技術を活かした展示を披露し、来場者にとって刺激的で楽しい体験が提供されると期待しています。
大阪は古くから商都として栄え、ビジネスの街としても国際的に知られています。大阪・関西万博では、こうした大阪の特長を活かし、ビジネスマッチングの場としての機能を強化することを目指しています。これは、参加国や企業が新たなビジネスパートナーを見つけ、イノベーションを促進する貴重な機会となるでしょう。特に中国にとっても、この万博はビジネスの新しいチャンスを見つける場として、大いに活用していただきたいと思っています。
万博は、ビジネスの場としてだけでなく、異文化交流の絶好の機会でもあり、多くの外国人が日本を訪れることを通じて、特に若い世代が異なる文化を直接体験し、視野を広げる貴重な機会となることを期待しています。
大阪・関西万博が、日中両国を含めた多国間交流を深め、新たな知見や経験を得る場となり、ビジネスの可能性を広げるとともに、文化交流を通じて持続可能な未来を共に築く一助となることを願っています。
トップニュース
2024/7/4 |
||
2024/7/1 |
||
2023/10/5 |
||
2023/10/12 |