近藤高志 近藤クリニック院長
ある日本人医師が中国に寄せる熱き思い

東京・中野区に70年の歴史を持つ個人医院がある。近藤クリニックだ。当院の院長である医学博士の近藤高志氏は、医学交流で何度も中国を訪れ、中国に対して特別な思いを抱いている。

中国人スタッフを通訳として採用

日本では都市部にも地方にも個人医院があちこちにあり、通院に不自由することはない。近藤クリニックが他の多くの個人医院と異なるのは、外国人が多く来院することだ。その90%が中国人で、日本在住者だけでなく、旅行者や留学生も多く来院する。ところが、言葉の壁が診察に支障をきたしていた。

そこで、近藤院長は、クリニックに母国語を話すスタッフがいれば、患者は安心できるのではないかと考え、言葉の壁を取り除き、中国人患者が安心して診察を受けられるように、前後して10数名の中国人スタッフを医療通訳として採用し、交代で通訳をしてもらった。さらに、患者がイメージしやすいように、中国語で40本以上の受診に関する動画を制作した。これらの対応が評判を呼び、多くの中国人患者が訪れるようになった。

亡き父から受け継いだ中国への思い

近藤院長の中国に対する情熱は、亡き父である近藤宏二氏から受け継がれたものだ。中日国交正常化前の1972年5月、近藤宏二氏は中国医師会の招聘を受け、1カ月にわたって中国各地を訪問した。期間中、日本への留学経験もある著名な文化人である郭沫若先生が北京の人民大会堂で近藤宏二氏と面会した。その後、天津を訪れた際には、中西医結合医療の専門家で、当時、南開医院院長であった呉咸中先生に温かく迎えられた。

その際、近藤宏二氏は呉咸中院長が率いる科学研究チームの、中西医結合医療による急性腹症治療の研究成果と臨床治療効果に深い感銘を受けた。初の医療訪中団の一員として、近藤宏二氏は中国で見聞したことを1冊の書籍――『私のみた中国医学』にまとめ、日本の医学界で大きな反響を呼んだ。

近藤宏二著『私のみた中国医学』

半世紀越しの訪問

晚年になっても、近藤宏二氏は呉咸中との邂逅を決して忘れることなく、機会があれば必ず呉咸中先生を訪ねるように、息子に言い聞かせた。高志氏は父の言葉を胸に刻み、チャンスをうかがった。

2019年3月、氏の長年の友人である大連医科大学の呂申教授の紹介で、終に呉咸中氏との対面が実現した。呉氏は、かつて父と接した時と同じように温かく息子の高志氏を迎え、中西医結合医療における外科研究の成果と今後の展望について語り、高志氏は大承気湯について教えを乞うた。この父と子の47年にわたる中日医療交流は、メディアにも取り上げられ、医学界の美談となった。

近藤高志氏が呉咸中氏(右)のもとを訪ねる

学術研究に打ち込む

74歳になる近藤高志氏は、順天堂大学医学部で消化器外科の博士号を取得し、卒業後は、順天堂大学病院に外科医として勤務した後、父の跡を継いで近藤クリニックの院長に就き、内科、整形外科、皮膚科、肛門科の4科を開設し、医療水準を向上させるために、学術研究に心血を注いだ。

長年にわたり、近藤院長は国内外の医学誌や学術会議で10本以上の論文を発表し、講演も行ってきた。日本消化器外科学会で発表した『糖尿病合併症例の胃切除後の耐糖能の変化』、マレーシア世界糖尿病学会で発表した『空腹時グルカゴン・サンドイッチELISA法に関する考察』では、消化器外科、糖尿病研究に対する造詣の深さを垣間見ることができる。

近年は生活水準の向上に伴って、中国でも糖尿病の発症率が高くなり、近藤クリニックを訪れる中国人糖尿病患者の数も増えている。治療効果を高めるため、近藤院長は、新たな治療法として、経口血糖降下薬に加えて、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)注射薬を併用し、インスリンの分泌を促し、グルカゴンの分泌を抑制して血糖値を下げ、糖尿病患者に効果的な治療を行っている。

近藤高志院長と呂申教授(右)

日中医学交流に尽力

近藤院長の中国訪問は大連から始まった。初めて中国を訪れる際、千葉大学医学部に留学していた大連医科大学の呂申教授と知り合い、呂申教授の案内で大連医科大学や大連の病院を訪問し、糖尿病を専門とする教授と交流し、学術会議では、日本における糖尿病の治療・研究について講演した。長年の交流を通じて、近藤院長と呂申教授は深い友情を築いた。

近藤院長はその後も頻繁に訪中し、北京、上海、天津、済南、青島、厦門、香港等を訪れ、5度の学術講演を行っていた。2019年12月、呉咸中院士の薦めにより、山東省・済南で開催された「第七回世界中西医結合大会」に出席し、日本の漢方薬研究の成果について講演を行った。

 

中国に寄せる熱き思い

長年にわたる中国への訪問を通じて中国への思いを深めた近藤院長は「わたしは中国が大好きです」と語る。氏は、改革開放によって大きく変貌した中国に感慨を深くし、高速道路や高速鉄道の急速な発展に驚き、洗練された美しい海浜都市・大連を賛嘆する。大連の海鮮や天津の肉まん等、中国グルメにも眼がない。そして、氏が最も敬服しているのは、中国医学界が成し遂げた中西医結合医療に関する研究成果である。

近藤院長の父君は生前「中国には深謀遠慮の人物が多い」と話していたという。亡き父の心を深く知る氏は、日中医学交流と在日中国人のために、出来る限りのことをしたいと願っている。「父子二代に渡って中国の医学界から受けた恩義を決して忘れることなく、父の遺志を継ぎ、日中両国の医学交流に力を尽くしていきます!」と語る。(画像提供:近藤クリニック)